契約書チェックにChatGPTを活用するメリットとリスクとは?プロンプト例と実際のレビュー事例まで

近年、ChatGPTに代表される生成AI技術の飛躍的な進化と、AIを活用した契約書チェックは、契約書の内容を自動的に解析し、リスクや問題点を検出することで、従来の業務プロセスを効率化し、コスト削減に貢献すると期待されています。

企業活動において、契約書はビジネスの根幹をなす重要な法的文書です。契約書の作成、レビュー、管理は、法的リスクを回避し、円滑な取引を遂行するために不可欠な業務とされています。しかし、この契約書チェック業務は、多くの企業にとって大きな負担となっています。

AIがこれらの作業を代替することで、より戦略的かつ付加価値の高い業務に集中できるよになれば良いのですが 、誤情報の可能性や情報漏洩のリスク、さらには法的・倫理的な問題のすべてをAIに代替してしまうのは危険です。AIのもっともらしい誤情報を生成する「ハルシネーション」や機密情報漏洩、専門性・情報の鮮度不足といった「危険性」も内在します。

また、実際の活用方法やベストプラクティス、既存の専門ツールとの比較、そして将来的な展望についても触れていきます。ChatGPTを契約書チェックに導入すべきか、どのように活用すべきか、AI時代の契約書チェックの最前線を解説します。

目次

ChatGPTを契約書チェックに利用する際の注意点

ChatGPTは契約書チェックに多くのメリットをもたらしますが、その利用にはいくつかの潜在的なリスクと限界が伴います。まずはこれらの点を十分に理解し、適切な対策を講じることが、安全かつ効果的な活用には不可欠です。

ハルシネーションと回答精度の限界

ChatGPTを含む大規模言語モデル(LLM)は、「ハルシネーション」と呼ばれる、もっともらしいが事実ではない情報を生成する現象を起こす可能性があります。

これは、AIが学習したデータの不完全さや不正確さ、あるいはモデルが「知らない」ことを認めるよりも、文脈上もっともらしい回答を生成しようとする傾向に起因します 。特に法律や医療など、正確さが極めて重要な分野でハルシネーションが発生すると、誤った法的アドバイスや条項の提案、非現実的な判例の引用など、致命的な影響を及ぼす可能性があります 。

汎用AIであるChatGPTは、高度に専門的な質問やリアルタイム性が求められる情報の精度が比較的低く、専門的な契約書チェックにおいてはその限界が顕著になる場合があります。  

学習データの偏り、情報の鮮度と専門性の不足

LLMは、その性能が学習データに大きく依存しています。そのため、特定のカットオフ日以降の最新情報、例えば最新の法改正や判例には対応できません 。GPT-4は2023年4月までの情報しか持っていないとされており、それ以降の法律の変更や新たな業界慣習については正確な情報を提供できない可能性があります。

以下は、主要なGPTモデルごとの「学習データのカットオフ日(=いつ時点までの情報を持っているか)」を比較した表です。

モデル名データ学習期限備考・特徴
GPT-3.52022年1月無料版の標準モデル
GPT-42023年4月 または 2023年10月有料版の標準モデル。2023年10月カットオフ説もあり
GPT-4 Turbo2023年4月GPT-4の高速版。知識範囲はGPT-4と同じ
GPT-4.52023年10月GPT-4より新しいモデル。2023年10月まで
GPT-4o2024年6月最新主力モデル。2024年6月までの情報
GPT-o32024年6月最新世代の推論モデル
  • GPT-4のカットオフ日は「2023年4月」と「2023年10月」の両説がある
  • 公式や多くの解説サイトでは2023年4月が主流。一部で2023年10月説も見られる
  • GPT-4oは2025年1月のアップデートで「2024年6月」まで延長
  • 2024年7月~2025年6月などは、Webブラウジング機能や外部検索プラグインを利用しない限り、モデル単体では取得不可

また、インターネット上のテキストデータには様々な偏りが含まれるため、特定の文化や知識領域、あるいは業界特有の慣習や商取引上の特殊な事情など、個別具体的な状況に関するAIの対応能力には限界が生じる可能性があります。

利用するGPTモデルによって知識の新しさが異なります。最新情報が必要な場合は、モデルのカットオフ日を必ず確認し、必要に応じてWeb検索機能を活用してください。  

機密情報・個人情報漏洩のリスクとプライバシーへの配慮

ChatGPTに契約書を入力する際には、個人情報や企業機密情報の漏洩リスクに十分な注意が必要です。

特に、個人向けサービスではアップロードされたファイルがモデル学習に利用される可能性があるため、機密性の高い情報が含まれる契約書をそのまま入力することは避けるべきです。情報漏洩リスクを低減するためには、契約書の内容をそのまま入力するのではなく、機密情報を削除したり、内容を抽象化したりするなどの匿名化処理が不可欠です 。

また、ChatGPTのプライバシーポリシーやデータ取り扱い規約を事前に確認し、データがどのように保存・共有されるのかを理解しておくことが重要です 。企業向けのプランやAPI利用では、データがモデル学習に利用されない方針がOpenAIから示されていますが、個人利用の場合でも設定で学習への利用をオプトアウトする機能の活用を検討すべきです。

個別具体的な状況や複雑な法的解釈への対応能力の不足

AIは過去の判例や法律に基づいて契約書をチェックしますが、法律の解釈は常に変化する可能性があり、AIがその変化に完全に対応しきれない場合があります 。また、契約書は個々の取引の状況に合わせて作成されるため、AIがすべての状況を想定してチェックすることは困難です 。

特に、業界特有の慣習や商取引上の特殊な事情、当事者間の力関係など、ビジネスの文脈を深く理解した上での判断はAIには困難です 。AIは「ビジネスの専門家」ではないため、チェック結果を利用した経営判断は、最終的に利用者自身が行う必要があります 。  

ChatGPTは非常に強力なツールですが、その回答は「完璧ではない」という前提に立つことが極めて重要です 。ハルシネーション、学習データの限界、機密情報のリスクは、AIがもたらす便益の裏にある「固有のリスク」です 。

これらのリスクを認識し、適切なプロンプト作成、人間による最終確認、機密情報の匿名化といったリスクマネジメントのプロセスを組み込むことが、AIを安全かつ効果的に活用するための鍵となります。

AIはあくまで「支援ツール」であり、最終的な判断と責任は人間が負うという原則を徹底する必要があります。  

ChatGPTを契約書チェックに活用するメリット

ChatGPTを契約書チェックに活用することには、多岐にわたる利点があります。これらの利点は、法務部門だけでなく、企業全体の業務効率と生産性向上に貢献します。

時間とコストの大幅な削減

ChatGPTの導入は、契約書チェックにかかる時間と労力を劇的に削減します。例えば、AIサービスの活用により、リーガルチェックと契約書ドラフトにかかる時間を短縮した事例や 、レビュー時間を削減した事例が報告されています。

このように作業時間が大幅に短縮されることで、人件費や外部弁護士への依頼コストの削減にも繋がります 。特に、一般的な契約AIサービスが月額10万円程度かかるのに対し、ChatGPTの月額費用は3,000円から4,000円と、圧倒的に低コストで利用できる点も魅力です。

業務効率化と生産性向上

AIは契約書に含まれる条項を瞬時に読み取り、リスク箇所を即座に抽出・分類する能力を持っています 。この迅速な処理能力により、業務効率が飛躍的に向上し、法務担当者は定型的な作業から解放されます 。

その結果、より戦略的な契約交渉や複雑なリスク分析など、付加価値の高い業務に集中できるようになります 。さらに、契約締結までの期間が短縮されることは、ビジネス全体のスピードアップに繋がり、経営面でも大きなメリットをもたらします 。  

初期ドラフト作成と条項抽出の支援

ChatGPTは、新規契約書の初期ドラフト作成において強力な支援を提供します。既存のテンプレートや特定の取引条件を入力することで、必要な条項や文言を提案し、契約書の基本的な枠組みを迅速に生成することが可能です 。

これにより、法務専門家は、AIが作成したドラフトの正確性や表現の微調整に集中できるため、作成プロセスの大幅な効率化が期待されます。また、契約書から主要条件や特定の条項を効率的に抽出・比較する機能も備わっており、過去の契約書との比較やリサーチにかかる手間を省くことができます。

例えば、旧契約書と新契約書のテキストを入力するだけで、追加、削除、修正された条項を瞬時に抽出し、形式的変更と実質的変更に分類することも可能です。

品質均一化と人的ミスの削減

AIは疲労や集中力の低下による影響を受けないため、人間がレビューする際に発生しがちな入力ミスや読み落としといった人的ミスを大幅に軽減します 。

AIは事前に設定されたプレイブックやチェックリストに基づいて文書を判定するため、担当者の経験やスキルに左右されることなく、一定水準の品質を維持したチェックが可能です 。

これにより、契約書チェックの品質にばらつきが生じるのを防ぎ、新人法務担当者の教育支援ツールとしても活用できるという利点があります 。  

ChatGPTの活用は、単に作業時間を短縮する「量的効率」だけでなく、チェック品質の均一化や人的ミスの削減といった「質的安定」も同時に提供します 。法務のように専門性と正確性が厳しく求められる分野において、これは業務のボトルネックを解消し、全体的な生産性向上に貢献する極めて重要な要素です。

AIが定型的な作業を担うことで、人間はより高度な判断や創造的な業務に集中できるという、相乗効果が期待されます。

以下に、ChatGPT導入によって契約書チェックの時間と労力を大幅に削減した5つの具体的な事例を、各300文字程度で解説します。

ChatGPTの活用により契約書チェックの効率化に至った事例3つ

Zenken総務部:契約書チェック時間を50%削減

Zenken総務部では、ChatGPT Enterpriseを導入し、契約書の不利益や問題点を自動で抽出。担当者は重要ポイントの確認や問い合わせ対応を迅速に行えるようになり、従来必要だった一語一句の精査作業が大幅に効率化されたようです。

事例3: 契約書チェック業務の効率化
導入前の課題:契約書を一語一句読み込む必要があり、チェック業務と条項確認に多大な時間を要していた。 
導入後の変化:ChatGPT Enterprise導入後は契約内容の不利益や問題点を自動的に確認できるようになり、重要ポイントを即座に抽出して効率的な確認が可能になった。また、契約条項に関する問い合わせへの回答作成も迅速に行えるようになり、契約書類の内容精査から作成完了までの時間が約50%短縮された。実際のケースとして、外部業者との契約締結時に契約条件について不明点があった際、「この条項の解釈は適切か?」「他社ではどのような表現が一般的か?」といった質問をChatGPTに投げかけることで、該当部分を分かりやすく要約し適切な回答案を迅速に作成できるようになった。これにより担当者の確認作業の負担が軽減され、専門的な契約文言の確認やビジネスメールのトーン調整にも役立ち、取引先とのやり取りが円滑になり、対応スピードが向上した。

引用元:Zenken総務部のChatGPT Enterprise活用事例

その他事例Zenken、ChatGPT Enterprise全社員導入で年5,000万円の外部委託費用削減を実現!〜月間12,500時間の工数削減と生産性2倍を実現、業務革新と顧客接点の高度化を加速〜

モノリス法律事務所:AI(ChatGPT等)法務チームの業務を拡大

モノリス法律事務所は、2023年5月にAI(ChatGPT等)法務チームを発足し、同年7月には業務を拡大して海外法制にも対応するなど、急速にAI法務分野での専門性を高めています。元ITエンジニアの代表弁護士・河瀬季氏が率いる同事務所は、「企業ITを進化する」をミッションに掲げ、法律とIT技術の両分野のノウハウを活かした独自のサービスを展開してます。

AI法務においては、モノリス法律事務所では、以下の時間目安でサービスを提供しています。

類型平均大型最大
業務委託契約書等一般的な契約書1時間30分5時間8時間
NDA等類型的な契約書1時間2時間3時間
利用規約4時間6時間8時間
契約書作成の稼働時間目安
類型平均大型最大
業務委託契約書等
一般的な契約書
45分2時間4時間
NDA等類型的な契約書20分40分1時間30分
利用規約2時間3時間5時間
契約書レビュー・修正の稼働時間目安

大和証券株式会社:ChatGPTを全社員約9,000人を対象に導入

大和証券は、ChatGPTについて「世界的にも活用方法を模索中の状況であると認識しているが、計り知れない可能性を秘めている」と評価しています。同社は、当該技術を迅速に広く活用することで新たな活用方法のアイデアを探ることが最も有益だと考え、これまで大和証券グループに蓄積してきたデータ・AIやクラウド等のデジタルへの知見を活かし、早期導入に至ったと説明しています。

  • 時間短縮効果:各種書類や企画書等の文章作成において、本来業務に充てる時間の創出を実現
  • 外部委託費用削減:資料作成の外部委託にかかる時間の短縮や費用の軽減を達成
  • 業務効率化:英語等での情報収集のサポートにより、契約書レビューの効率性が向上

ChatGPTによる契約書種類別レビューの結果とプロンプト例

ChatGPTを契約書チェックに活用すると、リスクの洗い出し曖昧な表現の指摘業界標準との比較といった観点で数多くのメリットがあります。

ChatGPTは大量のテキストから学習した知識を活用し、契約書中の不利な条件や潜在的リスクを人間より迅速に特定できます。ここでは契約書の種類ごとの具体的な活用例を解説します。

多くの契約書種類に対応できるプロンプト例

【ロール】
あなたは日本法に精通した企業法務弁護士であり、契約ドラフティング歴 10 年以上です。

【目的】
<契約類型> のリスク洗い出しと改善提案を、当社(<当社の立場>)の利益最大化の観点で提示して下さい。

【出力フォーマット】
重要度順リスク TOP5(各 120 文字以内、条番号付き)
修正案(該当条文全文を改訂し、改訂箇所を《》でハイライト)
ネクストアクション(社内確認事項・相手方交渉ポイント)
このレビューをWord形式で出力し、修正箇所をハイライトに(または、新旧比較できるように専用フォームを用意)

【評価基準】
実務慣行との乖離度(★1〜5)
リーガルリスク金額インパクト(高・中・低)
解決難易度(交渉しやすい/難しい)

【契約書本文】
<<<ここに全文を貼り付け>>>

業務委託契約の場合

委託内容や成果物の扱い、責任範囲など多岐にわたる条項を確認する必要があります。ChatGPTを使えば、契約書の重要ポイントを短時間でチェック可能です。

例えば責任制限条項や個人情報保護条項について、ChatGPTに「この業務委託契約書の責任限定条項の妥当性と個人情報保護条項の網羅性を、業界標準と比較して問題点を指摘してください」といった具体的な指示を与えることで、過度な責任リスクやプライバシー面の漏れを的確に洗い出すことができます。

こうした効率化により、法務担当者は戦略的な交渉やリスク評価により多くの時間を充てることができます。

ChatGPTによる業務委託契約のレビュー結果

本ページで確認できるように、HTML形式で表示しています。

第9条(損害賠償)
現行条文:

甲及び乙は、相手方が本契約に違反したことによって、または、本契約に要求される義務を履行しなかったことによって損害を被った場合には、その被った損害(民法第416条各項に定める範囲とする)を、本契約の委託料相当額を上限として賠償することを相手方に求めることができる。

修正文案:

甲及び乙は、相手方が本契約に違反したことにより、または本契約に基づく義務の不履行により損害を被った場合、その損害(民法第416条各項に定める範囲とする)を 直接かつ通常発生する範囲で、かつ本契約の委託料総額の2倍を上限として 賠償することができる。ただし、相手方の故意または重過失による場合、および第8条違反に起因する損害については、この上限の定めは適用しない

※ 賠償上限の柔軟化+重大違反時の無制限化により甲側保護強化
第6条(知的財産権の帰属)
現行条文:

乙が委託業務を遂行する過程で得られた発明、考案、意匠、著作物に関する知的財産権は、すべて甲に帰属するものとする。

修正文案:

乙が委託業務を遂行する過程で得られた 成果物(著作物、プログラム、資料、デザイン、発明その他成果を含む) に関する一切の知的財産権は、すべて甲に帰属するものとする。成果物には、乙が第三者に再委託した場合に当該第三者が作成した成果も含まれる。

※ 成果物の範囲を明文化し、第三者作成分も明確に甲帰属とする
第3条3項(委託料に含まれる費用)
現行条文:

委託料には、委託業務にかかる一切の報酬に加え、費用(国内外の通信費、出張旅費・宿泊費を含む)を含むものとする。ただし、委託業務の遂行のために必要となる乙の出張旅費・宿泊費等の諸費用は、予め乙が甲に申し出て甲が承諾したものに限って甲の負担とする。

修正文案:

委託料には、委託業務にかかる報酬に加え、通常必要となる費用(国内外の通信費、一般的な事務費を含む)を含む。ただし、出張旅費・宿泊費等の実費が発生する場合、乙は 見積書を添付のうえ事前に書面で申請 し、甲の 書面承諾があったものに限り 甲が負担する。

※ 費用の透明性確保とコスト管理強化
第2条(4)(遂行状況の報告)
現行条文:

乙は、甲からの求めに応じて委託業務の遂行状況を都度報告するものとする。

修正文案:

乙は、甲からの求めに応じて 月次および必要時に委託業務の進捗状況・成果物・課題等を記載した書面をもって 報告するものとする。報告の具体的様式および頻度については、別途協議により定める。

※ 形式と頻度を明確化し、プロジェクト管理精度を高める
第5条2項(再委託)
現行条文:

乙は、委託業務の遂行にあたり、甲の事前の書面による承諾を得ることを条件として、第三者に委託業務の全部または一部を再委託できるものとする。ただし、乙は、本契約における乙の義務と同等の義務を当該第三者に課すものとし、当該第三者の責により発生した損害について、乙は甲に対してその責を負うものとする。

修正文案:

乙は、委託業務を第三者に再委託する場合、甲の書面による事前承諾を得なければならない。また、乙は当該第三者の 氏名・業務範囲・選定理由を甲に開示し、甲の承諾を得たうえで再委託する。再委託先に乙と同等の義務を課し、乙は再委託先の行為に関して全責任を負う。

※ 再委託の透明性を確保し、品質・責任リスクを制御

秘密保持契約(NDA)の場合

秘密保持契約(NDA)では、秘密情報の定義や例外事項、有効期間などの条項が適切かを確認することが重要です。ChatGPTはこれまでに学習した契約書の知見をもとに、提示されたNDAの条項が一般的な水準と比べてどうかを判断できます。

例えば、取引先から提示された秘密保持条項が自社の標準と比較して過度に厳しい場合や業界慣行から逸脱している場合、ChatGPTがその点を警告してくれることがあります

。具体的には「このNDAにおける秘密情報の定義範囲は適切か?」と質問すれば、定義が曖昧すぎないか、また法律上保護されない情報の除外(例:公知情報や法令により開示が義務付けられる情報の扱い)が盛り込まれているか等、リスクになり得る箇所を指摘できます。

さらに表現が曖昧な条項については、より明確な文言への書き換え案を提案させることも可能です。ChatGPTは契約書内の解釈に余地のある条項を検出するのが得意で、NDAの曖昧な表現を明確化する上でも有用です。

ChatGPTによる機密保持契約書のレビュー結果

第2条(定義)
現行条文:

「秘密情報」とは、①秘密である旨の表示がなされた書面情報、②口頭で告知し30日以内に書面通知された情報、③秘密指定された有体物。

修正文案:

「秘密情報」とは、①秘密である旨が表示された情報に限らず、②その性質上秘密と理解されるべき全ての情報 (例:製造方法、装置情報、現地見聞など) を含む。秘密表示の有無にかかわらず、相手方が合理的に秘密と理解すべき情報も対象とする。

※ 形式要件主義を緩和し、現場で得られる非形式情報も保護対象に。
第3条1項(秘密保持義務)
現行条文:

受領者は、秘密情報・交渉事実・契約の存在を、目的外使用・第三者開示してはならない。

修正文案:

受領者は、秘密情報・交渉事実・本契約の存在を、開示者の 書面による事前承諾なく 目的外使用・第三者開示してはならない。また、秘密情報は 合理的な管理水準に基づき 保管・取扱うものとする。

※ 保護義務の明文化と管理基準の追加で抑止力強化。
第6条(返還・廃棄)
現行条文:

契約終了または請求時に、秘密情報を返還または廃棄する。

修正文案:

契約終了時または開示者の請求により、受領者は秘密情報を 全ての複製・改変・派生物を含めて、開示者の指示に従って返還または廃棄し、その 証跡として書面報告(例:廃棄証明) を提出するものとする。

※ デジタルデータ等の残存リスクに備え、証跡義務も明示。
第7条(損害賠償)
現行条文:

契約違反による損害が生じた場合は賠償責任を負う(弁護士費用含む)。

修正文案:

契約違反により相手方に損害が生じた場合、加害当事者はその損害(合理的範囲の弁護士費用を含む)を賠償する。なお、故意または重大過失による違反があった場合には、直接損害にとどまらず間接損害・逸失利益も賠償対象とする

※ 損害項目の範囲明確化により、重大違反時の抑止効果を高める。
第9条(存続期間)
現行条文:

契約終了後も、秘密情報の保護期間を〇年とする。

修正文案:

本契約終了後に開示された秘密情報のうち、営業秘密または個人情報に該当する情報は、その性質上保護すべき期間が 〇年を超える場合には、当該合理的期間 まで機密保持義務が存続する。

※ 情報の性質に応じた長期保護(例:営業秘密の10年超保護など)に対応。

売買契約書の場合

売買契約では、商品の仕様や引渡し条件、代金支払い条件、保証・瑕疵担保責任など、多岐にわたる項目を網羅的にチェックする必要があります。

ChatGPTを活用することで、これらのポイントについて抜け漏れなく確認することができます。例えば「この売買契約書で買主に不利な条項はどれか?」と尋ねれば、支払い期限が不当に短い、遅延利息に関する規定がない、保証条項が買主に不利益な形になっている等、自社(買主)の立場から不利になり得る条項を洗い出すことができます。

また、もし重要な条項が欠落している場合(例:製品不具合時の対応策や検収方法の規定がない等)には、ChatGPTがその欠落条項を指摘し、追加すべき旨を教えてくれるでしょう

ChatGPTのこうした能力を活用すれば、売買契約に内在するリスクを早期に発見し、適切な対応策(条項修正や追記)を講じることが可能になります。

ChatGPTによる売買契約書のレビュー結果

第1条(売買契約)
現行条文:

甲は乙に対し、本商品を金○○万円で売り渡し、乙はこれを買い受けた。

修正文案:

甲は乙に対し、以下の物品(以下「本商品」)を 仕様・品質・数量を明確に特定のうえ、金○○万円で売り渡し、乙はこれを買い受けた。

※ 品質条件等を明記し、納品内容の不一致リスクを回避。
第2条(売買代金の支払方法)
現行条文:

乙は、前条の代金を分割で支払い、振込手数料は乙負担とする。

修正文案:

乙は、前条の代金を分割して支払う。支払完了までは、本商品の所有権は 乙に移転せず、甲に留保される。振込手数料は乙が負担する。

※ 所有権留保条項で未払い時のリスクを明確化。
第3条2項(所有権移転)
現行条文:

本商品の所有権は引渡しをもって乙に移転する。

修正文案:

本商品の所有権は、乙による全額支払完了および引渡しの双方完了時点で乙に移転する。

※ 所有権移転条件を明確にし、乙のリスクと納品責任を調整。
第4条(危険負担)
現行条文:

引渡し前の滅失・毀損は甲の責任。目的不達成なら乙は解除可能。

修正文案:

本商品の危険負担は、実際の引渡完了時に乙に移転する。引渡し前の損害は甲が負担する。ただし、乙が検査で瑕疵を指摘した場合、甲は 代品納入・修補・減額 のいずれかに応じる。

※ 検査+救済措置の導入で乙の実務負担と損害を軽減。
第5条(損害賠償責任)
現行条文:

契約違反時の損害賠償義務(弁護士費用含む)を規定。

修正文案:

契約違反により相手方に損害を与えた場合、違反当事者はその損害(通常損害の範囲内に限定し、合理的な弁護士費用を含む)を賠償する。ただし、故意・重過失の場合はこの限りでない

※ 軽微違反での過大な請求リスクを排除、バランス確保。

弁護士や法務担当によるレビューとChatGPTとの比較

ChatGPTを用いた契約書チェックと、従来の人間(社内法務部門や弁護士)によるレビューとを比較すると、それぞれに長所・短所があります。以下の表に、主な観点(精度、速度、コスト、説明責任、最新情報への対応)について比較をまとめます。

スクロールできます
観点ChatGPTでの契約書チェック人間(法務担当者・弁護士)
チェックの精度【良い点】
・形式的なミス検出や網羅的チェックが得意。
・定義語の不整合やクロスリファレンスの誤りも高精度で拾える

【不安な点】
・法的ニュアンスの解釈や契約全体の文脈理解では不安が残る
・事実と異なる回答を生成する恐れもある
・専門的な条項では誤った判断をする可能性あり。
【良い点】
・法的リスクの評価や契約全体の妥当性判断に優れる
・個々の条項だけでなく事業背景を踏まえた総合判断が可能
微妙な法解釈や業界特有の慣行も考慮できる

【不安な点】
・人的作業ゆえにチェック漏れのリスクはゼロではない
・疲労などによりケアレスミスが生じる場合もある
レビューに要する時間・かなり高速
・数万字の契約書でも数十秒〜数分で全体を分析可
複数の契約書を並行して処理
・契約締結プロセス全体の大幅な迅速化に寄与
丁寧に精読しチェックリストを適用するため時間を要する
・レビューに数日〜数週間かかる
・担当者のスケジュールに左右される
・複数件を同時処理するには人員が必要
・緊急時以外は営業時間内での対応に
コストChatGPT自体の利用料金は非常に安価で導入可能
・一契約書あたりの追加コストはごくわずか
・外部弁護士へ支払うレビュー料を大幅に削減
・社内法務リソースの節約に寄与
・外部弁護士の場合数万円の費用が発生
・契約書1件のレビューでも相当額に
AIに比べると明らかにコスト高
説明責任
(結果の根拠提示や責任分担)
・AIは結果の根拠を自ら説明することは得意ではない
・法的に妥当か検証必要
・判断ミスがあっても責任を問う相手がいない
・社内的にも「なぜその指摘をしたか」の説得力に欠ける場合がある
・プロの法務担当者・弁護士は、自らの経験と知識に基づき理由を明示してアドバイスできる
・契約修正の提案についても法的根拠や判例を示しながら説明可能
・クライアントや社内の納得感が高い
・万一見落としやミスがあれば職業上の責任を負う覚悟で臨んでおり、その点で説明責任が明確
最新法令への対応モデルの知識はアップデートされない限り過去情報に留まる
・迅速なアップデートには追加学習やプラグインによる外部情報参照が必要
・常に最新状態を担保するのは難しい
・法改正や最新の判例動向をフォローし続けるのも法務プロの仕事の一部
・日々の実務や研修を通じて最新のリーガル情報をキャッチアップ
・新しい法律にも対応したレビューが可能
・専門分野外の新規トピックでは調査に時間を要することもある

こうした比較から分かるように、ChatGPTには人間にはない高速処理や網羅性、低コストといった強みがある一方で、法的判断力や最終的な責任負担といった面では人間の役割が依然として重要です。

特に、契約内容の企業戦略への適合性や交渉上の優先順位の判断、グレーゾーンの法解釈など、高度な判断領域は人間にしか担えないとされています。

したがって、ChatGPTと法務担当者・弁護士の協働(ハイブリッド)アプローチにより、それぞれの強みを活かす形で契約書チェック業務を進めることが望ましいでしょう。

契約書レビューの実務においてChatGPTを導入する際のポイント

ChatGPTを契約書レビューに取り入れる際は、上記メリットとリスクを踏まえ、効果的かつ安全な運用フローを構築することが大切です。以下に、社内法務プロセスへ組み込む際の具体的な導入ステップと活用モデルのポイントをまとめます。

前準備(文書のデジタル化と情報保護)

まず、チェックしたい契約書の電子データを用意します。紙の契約書しかない場合はスキャン+OCRでテキスト化するとよいでしょう。その際、個人名や企業名など機密情報はマスキング(匿名化・削除)してください。

例えば当事者名をアルファベット仮称に置き換えるなどし、最低限の情報だけをAIに入力するのがポイントです。こうすることで情報漏洩リスクを低減できます。

また、社内で「AIに投入してよい情報・ダメな情報」のガイドラインを作成し、機密保持契約の検討段階で許可なく社外AIに投入しないというルールを周知することも重要です。

チェック観点の整理とプロンプト設計

次に、その契約書で確認すべきポイントをリストアップします。契約書全体を漫然と投げるより、事前にチェック観点を絞って指示する方が効率的で的確なレビューが可能です。

例えば「支払い条件(支払期日・方法)」「契約期間(終了条件や自動更新の有無)」「守秘義務の範囲」「違約金や損害賠償の有無」「解除条件」など、重要項目ごとに抜けやリスクがないか確認項目を整理します。

これを踏まえてプロンプト(ChatGPTへの指示文)を作成します。「あなたは企業法務の専門家です。この契約書について以下の点をチェックしてください。」といった形で、AIに専門家の視点を持たせつつ要点を問うのがコツです。

自社の契約書テンプレートや過去のレビュー基準があれば、その内容も簡潔にプロンプトに盛り込むことで自社の方針に沿った分析結果を得やすくなります。

ChatGPTによる一次レビュー

準備が整ったら、契約書テキスト(あるいは要点)とプロンプトをChatGPTに入力し、一次レビューを実施します。ChatGPTは契約書の文面を読み込み、指定した観点に沿って問題点を指摘したり要約を作成したりします。たとえば「この契約書を全体的にレビューし、リスクが潜む箇所を指摘してください」と依頼すれば、不明確な条項や交渉上注意すべき点を一覧化してくれます。

また「○○条の内容は妥当か?」と個別に質問すれば、その条項についての解説や潜在リスクも回答してくれます。ChatGPTから得られた回答は即座に利用せず、まずは内容を精査しましょう。

AIの指摘が本当に的確か、重要なポイントの見落としはないか、人間の目で確認します。不明点があれば追加で質問したり、回答が不十分な場合はプロンプトを調整して再度問い合わせることで、欲しい情報に近づけていきます。

人間によるレビューと修正対応

ChatGPTから得た示唆を参考に、法務担当者または依頼を受けた弁護士が契約書をチェックします。AIがリストアップした懸念点を一つひとつ検討し、自社にとって許容できるリスクかどうか判断します。

必要に応じて契約条項の修正案を作成したり、カウンターパーティと交渉すべき事項を整理します。AIが指摘しなかった点でも、専門家の視点から気付いた課題があれば追記します。

特に、ChatGPTでは判断が難しいグレーゾーンの法解釈や事業戦略上の判断(例:将来の事業計画に照らしてこの契約条件で問題ないか等)は、人間の判断で補完します。

この段階で不明な点があれば再度ChatGPTに質問し、追加の情報を得ても良いでしょう(例えば「◯◯条をより公平な内容に修正するとしたら案を出して」と尋ねると、複数の修正文案を提案してくれるため交渉の叩き台になる。

ChatGPTで再チェック&最終確認

人間が修正を加え契約書の完成稿ができたら、念のためChatGPTで再度整合性をチェックします。修正により生じた条項間の矛盾や定義抜けがないか、AIにもう一度チェックさせます。

例えば「修正後の契約書で、条項間に矛盾や不整合がないか確認してください」と依頼し、形式的な抜け漏れがないか最終検証します。問題なければ、最終的なレビュー結果を社内承認します。

そして専門家(社内の上席法務や必要に応じ弁護士)による最終チェックを経て契約書を確定させます。特に重要度の高い契約やリスクの大きい契約では、AIのチェック結果に関係なく必ず法律の専門家が目を通すプロセスを残しておくことが不可欠です。

以上のような手順でChatGPTを導入すれば、契約書レビューをスピーディかつ精度高く行うことが可能です。実際、このような「AI→人間→AI」の三段階アプローチを採用した企業では、契約書レビューに要する時間を短縮しつつ、法的リスクの検出率を向上させる成果も報告されています。

小規模からテストが重要

社内でAIの提案内容を検証・ノウハウ共有しながら進めると良いでしょう。例えばまずはテンプレート化されたNDAや取引基本契約書などリスクの低い契約類型から試行し、ChatGPTの出力傾向を掴んでから対象範囲を拡大する方法が考えられます。

結果の検証プロセスを組み込み、逐次プロンプトの改善や手順の見直しを行うことで、AIの精度と社内の信頼度が高まっていきます。

このように、自社の契約業務に照らしてAIの得意な領域と不得意な領域を見極め、得意な部分に最大限活躍させつつ人間がカバーすべき部分は明確に線引きすることが成功のカギです。

契約書レビューに対するChatGPT導入検討時の選択基準と使い分け

企業がAIツールを導入する際は、自社のニーズ、予算、既存システムとの連携、そして法的リスク管理ポリシーに合わせて慎重に選択すべきです。

  • ChatGPT:
    • 初期段階の簡易チェック: 日常的で簡単な契約書の初期レビューや、特定の条項の有無の確認など、迅速な一次スクリーニングに活用 
    • 情報整理とアイデア出し: 長文の契約書や関連資料の要約 、社内規程のドラフト作成、法務関連のアイデア出しなど、汎用的な業務に活用
    • コストを抑えたい場合: 予算が限られている中小企業やスタートアップで、まずはAIの導入効果を試したい場合に適している
  • 専門リーガルテックAIツール:
    • 高度なリスク分析とレビュー:複雑な契約書、高額な取引に関わる契約書、あるいは国際取引など、高度な法的判断や専門的なリスク分析が必要な場合に導入
    • 自社基準に合わせたレビュー:企業独自のレビュー基準やプレイブックをAIに学習させ、一貫性のある高品質なチェックを求める場合に有効
    • 契約書管理の一元化:契約書の作成から締結、管理、更新期限通知まで、契約ライフサイクル全体を効率化したい場合に、包括的な機能を持つツールが適している
    • 英文契約書レビュー:英語ネイティブ弁護士が監修した英文契約書レビュー機能を持つツールは、国際取引におけるリスクを軽減する上で非常に有効

ChatGPTのような汎用AIと、LegalOn CloudやLegalForceのような専門リーガルテックAIツールは、それぞれ異なる強みと弱みを持っています 。このため、どちらか一方を選ぶのではなく、それぞれの特性を理解し、「適材適所」で使い分けることが、法務業務全体の最適化に繋がります。

まとめ

契約書チェック業務において、ChatGPTは強力なサポートツールとなり得ます。

業務委託契約やNDA、売買契約といった多様な契約類型で、リスクの早期発見や表現の明確化、標準条項との比較検証などに寄与し、法務業務の効率と精度を大幅に向上させるでしょう。特に定型的・反復的なチェック作業では、人間では考えられないスピードと網羅性で成果を発揮し、企業は法的リスクを効率的に回避しつつビジネススピードを加速させることができます。

一方で、ChatGPTは法律の専門家を完全に代替するものではなく、その能力を拡張するパートナーとして位置づけることが肝要です。AIには担えない高度な判断や最終的な説明責任は引き続き人間に委ね、AIと人間のハイブリッド型アプローチでそれぞれの強みを活かすことが、実務における最適解と言えるでしょう。

  • URLをコピーしました!
目次