生成AI(生成的人工知能/generative artificial intelligence)とは、文字などのプロンプトを入力することで文章・画像・映像・音楽などのコンテンツが自動生成される人工知能システムのことです。
生成AI技術は、日常生活・学生生活・ビジネスなどの幅広い場面で普及している一方で、生成AIシステムの開発段階や利用段階において、著作権との関係が問題になることが少なくありません。
そこで本記事では、生成AIと著作権の関係、生成AIを利用したあとに著作権侵害を理由に法的措置をとられた際に生じうるリスクなどについて解説します。
生成AIと著作権の関わりについて考える前に把握しておくべき基礎知識
生成AIと著作権の関係性を理解する前提として、まずは著作権に関する基礎知識を整理しましょう。
そもそも著作権とは?著作物とは?
著作物や著作権については、著作権法でルールが明文化されています。
まず、著作権法において著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」と規定されています(著作権法第2条第1項第1号)。そして、著作物を創作する者は「著作者」と呼ばれます(著作権法第2条第1項第2号)。
著作物に該当するか否かについては、以下4つの要件で判断されます。
- 思想または感情
- 創作的
- 表現
- 文芸・学術・美術・音楽の範囲に属する
次に、著作権法では著作者に対して法律上の権利を付与しています。著作権法によって付与される権利は、以下の「著作者人格権」「著作権(財産権)」の2種類に区分されます。
著作権の種類 | 内容 |
---|---|
著作者人格権 | 著作物をとおして表現された著作者の人格を守るための権利のこと。財産権としての著作権を第三者に譲渡したとしても、著作者人格権は著作者が保持し続ける。 ・公表権(著作物を公表するか否か、公表するとしてどのような方法で公表するのかを決定する権利) ・氏名表示権(著作者が自分の著作物に氏名を表示するか否か、表示する際に本名やペンネームなどどのような表示をするのかを決定する権利) ・同一性保持権(自身 の著作物のタイトルや内容を第三者によって勝手に変更されない権利) |
著作権(財産権) | 財産権としての著作権のこと。著作権法では、複製・上演・演奏・上映など、著作物の利用形態ごとに「支分権」が定められており(著作権法21条~28条)、第三者が支分権に属する利用行為をするときには、原則として著作権者の許諾が必要とされる(著作権法第63条第1項)。 ・複製権 ・上演権、演奏権 ・上映権 ・公衆送信権 ・公の伝達権 ・口述権 ・展示権 ・譲渡権 ・貸与権 ・頒布権 ・二次的著作物の創作権(翻訳権、翻案権など) ・二次的著作物の利用権 |
「著作物」と認められるものの例
著作権法上の「著作物」に該当するものの例として、以下のものが挙げられます(著作権法第10条第1項各号)。
- 小説、脚本、論文、講演、そのほかの言語の著作物
- 音楽の著作物
- 舞踊または無言劇の著作物
- 絵画、版画、彫刻、その他の美術の著作物
- 建築の著作物
- 地図または学術的な性質を有する図面、図表、模型、そのほかの図形の著作物
- 映画の著作物
- 写真の著作物
- プログラムの著作物
もっとも、著作物に該当するかどうかは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するか否か」(著作権法2条1項1号)という観点から判断されます。
そのため、上記例示に該当しないものであっても、上記の要件を充足するものであれば、著作物と認められます。また、「うまいから著作物になる」「下手だから著作物ではない」というのは間違いであり、あくまで上記要件に照らして著作物か否かが判断されます。
「著作物」とは認められないものの例
著作権法上、以下のものは著作物には該当せず、著作権法による保護対象から外れると考えられます。
- 単なるデータ
- 単なる模倣・模写
- 表現ではないアイディア(作風・画風)
- 一般的な工業製品のデザイン
著作権侵害と判断される2つの主な基準
他人の著作物を、権利者から許諾を得ずに権利制限規定に該当しないにもかかわらず利用した場合、「著作権侵害」として法的責任を追及される可能性があります。
著作権侵害か否かについては、以下2つの要件が重要です。
- 類似性があるか
- 依拠性があるか
類似性があるか | 表現上の本質的な特徴を感じられるほど類似しているか
類似性とは、大まかにいうと、「後発の作品が既存の著作物と同一、または類似していること」です。
他人の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるときに、類似性があると判断されます。類似性を肯定するためには、創作的表現が共通していることが必須の条件となります。
一方、アイディアなどの表現ではない部分や、創作性がない部分が共通しているに過ぎないケースでは、類似性は認められず、著作権侵害には該当しません。
たとえば、キャラクターのポーズパターン、時代小説で取り扱われる歴史的事実などは、アイディアや人が創作したものではない事実に過ぎないので、類似性があるとは認められないと考えられます。
依拠性があるか | 既存の著作物を参考にしたか
依拠性とは、「既存の著作物に依拠して複製などがなされたこと」です。
たとえば、既存のイラストを参考にしてこれと類似するイラストを制作したケース、広く知られた著名な楽曲に類似する音楽を制作したケースなどでは、依拠性が肯定されます。これに対して、既存の著作物の存在を知らず、ただ偶然一致したに過ぎないような「独自創作」の場合には、依拠性は認められず著作権侵害には該当しません。
生成AIで作成したものが著作権侵害になるか
生成AIで作成したコンテンツと著作権との関係性について解説します。
なお、ここでは文化庁が開催した『令和6年度著作権セミナー「AIと著作権Ⅱ」』の講演内容を基に、生成AIによる著作権侵害に対する文化庁の考え方を紹介します。
前提として生成AIでも従来の著作権に関する考え方が適用される
大前提として、先端技術である生成AIについても著作権に関する考え方は適用されます。ですから、「著作権法制定時に生成AI技術が存在しなかった以上、生成AIには著作権法は適用されない」というのは誤りといえます。
「AI開発・学習段階」「生成・利用段階」に分けて考える必要がある
生成AIと著作権侵害の関係を考えるときには、以下2つの段階に区別して考えるのが有益です。なぜなら、生成AIをめぐるプロセスによっておこなわれている著作物の利用行為及び関係する著作権法の条文が異なるからです。
AI開発・学習段階 | ・著作物を学習用データとして収集・複製・加工して、学習用データセットを作成する ・学習用データセットを学習前パラメータに入力して、AI(学習済みモデル)を開発する |
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AI生成・利用段階 | ・AI(学習済みモデル)に指示を与えて画像などのコンテンツを生成する ・AI生成物を公表・販売するなどして利用する |
その他 AI生成物の著作物性 | ・AIに簡単な指示だけ与えて文章・画像等を生成させた • AIに詳細な指示を与え、複数回試行錯誤して生成させた • AI生成物に人間が加筆・修正を加えた |
ここからは、AI開発・学習段階とAI生成・利用段階についてそれぞれ解説します。
「AI開発・学習段階」における著作権侵害の基本的な考え方
AIの開発・学習段階では、著作物・非著作物を問わず、さまざまな学習用データを収集・加工・学習する作業がおこなわれます。
もっとも、著作物の複製・譲渡・公衆送信などについて全て著作権者の許諾が必要となると、数億~数十億点にもなる大量の学習用データについて個別に許諾を得る必要が生じてしまい非現実的です。これではAIを開発できなくなってしまいます。
そこで、デジタル化・ネットワーク化による「第4次産業革命」に対応するために著作権法が改正され、以下のルールが設けられました。※平成30年5月18日可決・成立、同月25日公布、平成31年1月1日施行
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
引用元: 著作権法第30条の4|e-Gov法令検索
(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)
第四十七条の五
電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによつて著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為を行う者(当該行為の一部を行う者を含み、当該行為を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆への提供等(公衆への提供又は提示をいい、送信可能化を含む。以下同じ。)が行われた著作物(以下この条及び次条第二項第二号において「公衆提供等著作物」という。)(公表された著作物又は送信可能化された著作物に限る。)について、当該各号に掲げる行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、いずれの方法によるかを問わず、利用(当該公衆提供等著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る。以下この条において「軽微利用」という。)を行うことができる。ただし、当該公衆提供等著作物に係る公衆への提供等が著作権を侵害するものであること(国外で行われた公衆への提供等にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであること)を知りながら当該軽微利用を行う場合その他当該公衆提供等著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
引用元:著作権法第47条の5|e-Gov法令検索
「享受(鑑賞など)」を目的としない利用であれば著作権者の許可は原則不要
単なる情報解析目的の場合や、著作物に表現された思想・感情を自ら享受したり、他人に享受させることを目的としたりしない場合には、必要と認められる限度において、原則として著作権者の許可なしでAI開発・学習段階で著作物を使用することができます。
「享受」とは、「著作物の視聴などを通じて、視聴者たちの知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為」のことです。
具体的には、以下のものが挙げられます。
- 文章の著作物を閲覧すること
- プログラムの著作物を実行すること
- 音楽・映画の著作物を鑑賞すること
ただし、例外となるケースもあります。
一例として、情報解析目的や享受を目的としない場合でも、当該著作物の種類・用途・利用の態様に照らして著作権者の利益を不当に害することになる場合は、著作権者の許諾なしで著作物をAI開発・学習に活用することはできません。
「享受」を目的とした利用であれば著作権者の許可が必要
享受を目的としたAI開発・学習段階の著作物の利用には、著作権者の許諾が必要です。
また、非享受目的と享受目的が併存する利用行為、非享受目的が主たる行為であったとしても享受目的が付随している利用行為についても、著作権者の許諾が必要だと考えられています。
例えば、有名なアニメーションに類似する画像を一般公開する目的でAIに読み込ませて学習させた場合、著作権者の許諾がなければ、著作権侵害を理由に法的責任を追及される可能性が高いといえます。
享受する目的が併存している場合は
検索拡張生成(RAG:Retrieval-Augmented Generation)と呼ばれる、生成AIへの入力に用いるデータの収集等等については、著作権法第30条の4が適用されない場合でも、著作権法第47条の5の要件を満たす限りで、権利者の許諾なく著作物を利用可能な場合があります。
これは、インターネット検索エンジンで検索結果とともに、リンク先のウェブページから所在地情報などを数行程度表示するなど、軽微な利用に限られます。また、所在地検索等の結果提供に「付随して」行われるものであることも必要であり、これらの要件を満たさない場合の利用には著作権者の許諾を得る必要があります。
AIの「生成・利用段階」における著作権侵害の基本的な考え方
次に、AIの生成・利用段階における著作権侵害の考え方について解説します。
類似性・依拠性が認められなければ著作権侵害にならない
AIを活用してコンテンツを生成した場合と、AIを活用せずに人の手でコンテンツを生み出した場合、いずれも著作権侵害についての考え方は同じです。ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件(最判昭和53年9月7日民集32巻6号1145頁)では、ある作品に既存の著作物との『類似性』と『依拠性』の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされています。
生成 AI による生成物についても、その生成・利用段階において、既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば、生成行為や利用行為が著作権侵害に当たるとして、当該行為の差止請求や損害賠償請求を請求、(故意による著作権侵害に対して)、刑事罰の適用があり得えます。
これに対して、AIを活用した生成されたコンテンツについて類似性・依拠性が認められる場合には、著作権侵害の要件を満たします。
つまり、類似性及び依拠性が認められるケースで当該コンテンツを利用するには著作権者の許諾が必要であり、著作権者の許諾なしで公表することなどはできません。
類似性とは
類似性の有無は、「既存の著作物の表現形式上の本質的特徴部分を、新しい著作物からも直接感得できる程度に類似しているか?」が必要とされています。AIによる生成物と既存の著作物との類似性の判断についても、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるかどうかなどで判断されるものと考えられます。
依拠性とは
ある作品が『既存の著作物に類似している』と認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さで判断されます。
- 後発の作品の制作者が、制作時に既存の著作物を知っていたか
- 後発の作品と、既存の著作物との同一性の程度
- 後発の作品の制作経緯 など
ただし、生成AIの場合は開発のために利用された著作物を生成AIの利用者が認識していないまま、既存の著作物に類似したものが生成される場合も想定されます。
このような事情の場合、従来通り人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、AIによる生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合かを整理する必要があります。
詳しくは次項でご紹介します。
生成AIの制作物に類似性・依拠性が認められ著作権侵害となり得るケース
文化庁の『AIと著作権に関する考え方について』では、【当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合は依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立する】として、下記のケースが紹介されています。
(例)Image to Image(画像を生成 AI に指示として入力し、生成物として画像を得る行為) のように、既存の著作物そのものを入力する場合や、既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合
引用元:AIと著作権に関する考え方について
例えば、
- 有名小説や絵画などを明示的に参考にするようAIに指示を出した
- ○○画家の絵のような画像を生成してとAIに指示を出した
- 既存の著作物の一部をプロンプトとして直接入力した など
既存著作物へアクセスした可能性(既存の著作物に接する機会があったこと)や、類似性の程度の高さ等の間接事実により、被疑侵害者が既存の著作物の表現内容を認識していたことが考え得られます。
ただし、生成AIによって開発・学習段階で用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないと、技術的に担保されている場合もあります。そのため、より詳細は法的判断を仰ぐ場合は、専門の弁護士・弁理士に確認を取るのが望ましいと言えます。
私的に鑑賞するためなどであれば著作権者の許可は不要
なお、生成AIについて類似性・依拠性が認められるとしても、生成AIが「権利制限規定」に該当する場合には著作権侵害に該当せず、著作権者の許諾なしで生成AIを利用することができます。
例えば、個人的または家庭内、もしくはこれに準ずる限られた範囲内において生成AIを利用(私的使用)する目的の場合、わざわざ著作権者の許諾を得る必要はありません(著作権法第30条第1項柱書)。
また、学校やそのほかの教育機関において教育を担当する者や授業を受ける者が、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合においても、著作権者の許諾は不要です(著作権法第35条)。
AIによる生成物は著作物ではない
「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)とされています。
AIが作った生成物が「著作物」に当たるか否かについては、文化庁を中心に検討が行われてきましたが、現在AIが自律的に生成したものは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しないと考えられています。
逆に、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当しAIの利用者が著作者となります。この時、AIを「道具」として使用したといえるか否かは、「創作意図」と「創作的寄与」が認められる行為を
行ったかによって判断されるのですが、詳しくは次項で解説します。
生成AIの作成物に著作権が認められる基準|「創作意図」「創作的寄与」が認められるか
人の手によって創作されたコンテンツではなく、生成AIによって作成された成果物に著作権が発生するのかについて解説します。前段でお伝えしたように、著作物とは「思想または感情を創作的表現したものであり、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」と定義されます。
つまり、「生成」のボタンを押すだけでAIがシステムにしたがって自律的に生成したものは「思想または感情を創作的に表現した」とはいえず、著作物には該当しないと考えられます。人が何らかの指示を与えない、もしくは簡単な指示を与える程度の場合には「著作物」ではないため著作権も発生しません。
これに対して、人が自分の思想や感情を創作的に表現するための道具としてAIを使用したケースでは、生成AIの利用者が著作者(AI生成物=著作物)になると考えられます。
間違えやすいニュアンスとして、AI著作者であるような書き方をされるケースがありますが、AIは法的な人格を有していないことから、AI自身が著作者となるものではなく、当該 AI を利用して「著作物を創作した人」が著作者となります。
創作意図とは・判断基準について
創作意図とは「思想または感情をある結果物として表現しようとする意図」とされ、著作物が単なる事実やアイデアではなく、創作者の個性や感情が表現されていることがポイントです。
現状、「AIを使用して自らの個性の発現とみられる何らかの表現を有する結果物を作る」程度の意図があれば「創作意図がある」と判断するのが実務的見解であり、コンテンツなどを生成するためにAIを使用したその事実があれば「創作意図があった」と推認されます。
創作的寄与とは・判断基準について
創作的寄与とは著作物が著作権の対象となるために必要な要素で、思想や感情を創作的に表現するための指示や処理を行うことを指します。
創作的寄与の判断基準はまだ明確に確立されたものではありませんが、文化庁の例を鑑みるに、以下の要素を総合的に考慮して判断される可能性が高いと考えられます。
- AIに対して創作的表現といえるものを具体的に示す詳細・プロンプト入力
- ①に付随したAIの生成に対して行った試行回数・修正の回数
- AIが生成した複数の生成物からの選択
AIを道具として使用したと判断されるには、特に①に関する「創作的表現」と認められる必要があります。
著作権侵害をしたらどうなる?
生成AIが著作権侵害に該当すると判断されると、著作権者から民事責任を追及されたり、刑事告訴されて刑事罰を科されたりする可能性があります。
ここでは、著作権侵害をしたときに追及される可能性がある法的責任について解説します。
差止請求を受ける
著作者、著作権者、出版権者、実演家、著作隣接権者は、著作権侵害をしている者や著作権侵害をするおそれがある者に対して、差止請求(著作権侵害の停止や予防)をすることが認められています(著作権法第112条第1項)。
これに合わせて、著作権者などは差止請求をする際に著作権侵害行為を組成したもの、著作権侵害行為によって作成されたもの、著作権侵害行為をおこなうに際して使用された機械・器具などの廃棄処分や、その他著作権侵害停止・予防に必要な請求をすることも可能です(著作権法第112条第2項)。
ですから、生成AIが著作権侵害に該当すると判断されると、著作権者などから生成AIによって作成したコンテンツの廃棄処分や販売・公表の停止、生成AIシステム自体の削除などを強いられる可能性があると考えられます。
また、生成AIによって作出したコンテンツを販売したりしている場合には、取引自体を停止しなければいけなくなるので、取引相手との間での法的措置に発展するリスクも生じかねません。
損害賠償請求または不当利得返還請求をされる
生成AIによる著作権侵害によって著作権者に損害が生じた場合、被害者である著作権者は自らに生じた損害を回復するために、不法行為に基づく損害賠償請求を実施します(民法第709条)。
本来、不法行為に基づく損害賠償請求をする際、被害者側は損害額についての立証責任を負います。
もっとも、著作権侵害には損害額の推定規定が置かれており、不法行為に基づく損害賠償請求をおこなう被害者側の立証負担が大幅に軽減されています(著作権法第114条)。
生成AIによって著作権侵害をしてしまった場合には、ざっくりというと、生成AIの利用・販売などによって得た金銭相当額について賠償義務が生じる可能性が高いといえるでしょう。
なお、事案の詳細次第では、被害者側が不法行為に基づく損害賠償請求ではなく、不当利得返還請求権を行使する可能性もあります(民法第703条、民法第704条)。
名誉回復などの措置請求を受ける
著作者・実演家は、故意または過失によって著作者人格権・実演家人格権を侵害した者に対して、著作者・実演家であることを確保したり、訂正その他名誉・声望を回復するための適当な措置を請求することが認められています(著作権法第115条)。
ですから、生成AIによって著作権侵害に及んでしまった場合、被害者側から名誉回復措置請求を実施されて、謝罪広告や訂正広告の掲載などの措置を強いられる可能性があります。
刑事告訴を受ける可能性もある
著作権侵害には刑罰が定められており(著作権法第119条以下)、被害者側に刑事告訴されると、刑事責任を追及される可能性があります。
生成AIによる著作権侵害が刑事事件化した場合、以下のようなデメリットが生じます。
- 逮捕・勾留によって起訴・不起訴の判断が下されるまでに、数日~数週間身柄拘束される可能性がある
- 懲役刑が確定すると刑期を満了するまで社会生活に復帰できない
- 罰金刑が確定すると高額の金銭納付義務を強いられる
- 罰金刑、執行猶予付き判決、懲役刑のいずれであったとしても、「前科」によるデメリットに悩まされ続ける
なお、生成AIによる著作権侵害の事案では、「10年以下の懲役刑もしくは1,000万円以下の罰金刑(併科あり)」の範囲で法定刑が科される可能性があります(著作権法第119条第1項)。
また、法人代表者が著作権を侵害したようなケースでは、法人が3億円以下の罰金刑に処される可能性もあります(著作権法第124条)。
生成AIの著作権侵害が問題となった事例
ここでは、生成AIの著作権侵害が問題になった実際の事例について解説します。
中国で起きたウルトラマン画像に関する生成AI訴訟の事例
本件では、AI会社(被告)がウルトラマンを生成するAI生成絵画機能を有する課金サービスを運営しいていたところ、ウルトラマンシリーズの著作権者である円谷製作株式会社から授権を受けた中国におけるライセンシーから、複製権・改編権・情報ネットワーク伝播権侵害を理由に著作権侵害訴訟を提起された事案です。
広州インターネット裁判所
(2024)粤0192民初113号
判決日:2024年2月8日
同AI生成絵画機能サービスでは、ユーザーがTabのAI絵画モジュールのダイアログボックスに「ウルトラマンを生成」という指示語を入力すると、ウルトラマンの姿と一致する画像が表示されて、ユーザーがダウンロードできる仕組みになっていました。そして、広州インターネット裁判所は被告による著作権侵害を認定し、以下の判決を下しました。
- 被告は、本判決の法的効力が生じた日からただちに原告のウルトラマンに関する著作権を侵害する行為を停止し、技術的措置を採ったうえでAI生成絵画機能サービスの提供過程において、ユーザーが通常の使用方法によって原告の著作権を侵害する画像を生成することを防止しなければいけない
- 被告は、本判決の法的効力が生じた日から10日以内に、原告に対して損害賠償額(合理的費用を含む)として10,000元を支払わなければいけない
ニューヨークタイムズをはじめとする米紙の事例
アメリカでは、ニューヨーク・タイムズがベンチャー企業「オープンAI」とマイクロソフトを相手に著作権法違反で訴訟を提起しています。
この事案では、「オープンAIが運営する生成AIのChatGPTが、開発段階において、AIに学習させるために著作権で保護されたはずの記事を許諾盗んだこと」が著作権侵害の根拠とされています。全世界に広く普及したChatGPTサービスの合法性が問われていることから、今後の裁判の動向が注目されます。
ニューヨーク・マンハッタンの連邦地方裁判所
訴訟提起日: 2023年12月27日
参考:
https://theconversation.com/how-a-new-york-times-copyright-lawsuit-against-openai-could-potentially-transform-how-ai-and-copyright-work-221059
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN27CXP0X21C23A2000000
生成AIの利用で著作権侵害をしないために気を付けるべきポイントとは
現在、さまざまな生成AIサービスが普及しており、誰でも簡単に生成AIを活用して多様なコンテンツが制作できます。
もっとも、生成AIをめぐっては作出するコンテンツの特徴やその利用方法次第で、いつ著作権者側から著作権侵害を理由に法的措置を実施されるかはわからない状況です。
そのため、一般ユーザーが生成AIを使用する際には、以下3点に注意を払うことが必要です。
- 生成AIで作成した画像・文章が第三者の著作物に似ている場合には、公表や販売などの利用をせずにそのまま破棄する
- 他者の著作物をプロンプトに打ち込むこと自体を避ける
- 万が一著作権者から法的措置を採られたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談する
Q1:生成AIが作成したコンテンツが他の著作物に似ている場合、どのような基準で著作権侵害と判断されるのか?
著作権侵害と判断される基準は、従来の人間が作成したコンテンツと同様に、類似性と依拠性の2つの要素によって判断されます。
具体的には、以下の3つのケースが考えられます。
- AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合:例えば、既存の著作物そのものをAIに入力した場合や、既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力した場合などが該当します。このような場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられます。
- AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合:AI利用者が既存の著作物を知らなかったとしても、AIの学習用データにその著作物が含まれていれば、客観的にその著作物にアクセスがあったと認められるため、依拠性が認められる可能性があります5。ただし、AIの開発・学習段階において、学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないという状態が技術的に担保されている場合は5、依拠性がないと判断されることもありえます。
- AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI学習用データに当該著作物が含まれない場合:この場合は、生成AIが作成したコンテンツが既存の著作物に似ていたとしても、それは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられます。
上記のように、生成AIが作成したコンテンツが既存の著作物と似ている場合でも、常に著作権侵害となるわけではありません。類似性と依拠性の有無を慎重に判断する必要があります。
Q2:商用利用目的で生成AIを使う際、他人の著作物に基づいた生成物を使用することで発生しうるリスクとは?
生成AIは、学習データとして大量の著作物を含むデータセットを用いて学習するため、生成されるコンテンツが既存の著作物と類似する可能性があります。商用利用目的で他人の著作物に基づいた生成物を使用した場合、以下のリスクが考えられます。
- 差止請求:権利者から、生成物の使用停止を求められる可能性があります。
- 損害賠償請求:権利者から、著作権侵害による損害の賠償を求められる可能性があります。
- 刑事罰:故意に著作権を侵害した場合、刑事罰の対象となる可能性があります。
- レピュテーションリスク:著作権侵害が公になると、企業の評判が毀損される可能性があります。
- ビジネス機会の損失:生成物の使用停止や損害賠償請求によって、ビジネス機会を失う可能性があります。
Q3:他者が生成AIで作成したコンテンツを自社のコンテンツとして利用・公開する際の法的な注意点とは?
他者が生成AIで作成したコンテンツを自社のコンテンツとして利用・公開する際の法的な注意点をまとめると、以下のようになります。
- 著作権侵害の確認: コンテンツが既存の著作物を侵害していないかを確認する。
- 生成AIの利用規約の確認: 商用利用や自社コンテンツとしての利用が許可されているかを確認する。
- 著作権帰属の確認: 著作権の帰属先を確認し、必要に応じて利用許諾を得る。
他者が生成AIで作成したコンテンツを自社のコンテンツとして利用・公開する際には、著作権侵害と契約違反のリスクに特に注意する必要があります。
著作権侵害のリスクについて
生成AIによって作成されたコンテンツであっても、既存の著作物と類似性があり、かつ依拠性が認められる場合には著作権侵害となる可能性があります。
他者が作成したコンテンツを自社のものとして利用する場合、そのコンテンツが既存の著作物を侵害していないかを確認する必要があります。確認を怠り、著作権侵害のあるコンテンツを利用した場合、差止請求、損害賠償請求、刑事罰といった法的措置を受ける可能性があります。
契約違反のリスクについて
生成AIの利用規約では、生成されたコンテンツの利用範囲が制限されている場合があります。 他者が作成したコンテンツを利用する際は、生成AIの利用規約を確認し、商用利用が許可されているか、また自社コンテンツとして利用することが認められているかを確認する必要があります。
利用規約に違反してコンテンツを利用した場合、損害賠償請求やサービスの利用停止といった措置を受ける可能性があります。さらに、生成AIで作成されたコンテンツの著作権帰属についても注意が必要です。
生成AIの利用規約によっては、生成されたコンテンツの著作権がAI開発事業者またはコンテンツ作成者に帰属する場合があります。コンテンツの利用前に、著作権の帰属先を確認し、必要に応じて利用許諾を得る必要があります。
上記のような点に注意することで、法的なリスクを回避し、生成AIで作成されたコンテンツを安全に利用することができます。
Q4:生成AIを用いて作成した画像や文章をSNSやWebサイトに公開する場合、著作権表記やクレジットを入れておけば問題ない?
生成AIを用いて作成した画像や文章をSNSやWebサイトに公開する場合、著作権表記やクレジットを入れておけば問題ないわけではありません。
まず、生成AIで作成した画像や文章が既存の著作物と類似しており、かつ依拠性が認められる場合、著作権侵害となる可能性があります。著作権表記やクレジットを入れていても、著作権侵害になる可能性は変わりません。
生成AIの出力物が著作権で保護されるためには、人間による創作的寄与が必要です3。 単に生成AIに指示を出しただけでは十分な創作的寄与とみなされない可能性があります。例えば、生成AIに「赤い夕焼けの風景」という指示を出して画像を作成した場合、この指示だけでは著作物性を否定される可能性があります。
他方で、より具体的な指示や修正を加え、人間が創作性を発揮している場合は著作物として認められる可能性があります。
Q5:AI生成物を含むコンテンツを第三者に提供・販売する際、契約書で留意すべき著作権関連の条項はある?
AI生成物を含むコンテンツを第三者に提供・販売する際、契約書において著作権関連の条項は非常に重要です。 契約書では、特に以下の点に留意する必要があります。
コンテンツの著作権帰属
AI生成物を含むコンテンツの著作権が誰に帰属するかを明確に定める必要があります。
自社に帰属させるのか、第三者に帰属させるのか、あるいは共同所有とするのか、当事者間で合意しておく必要があります。AI生成物の著作権帰属については、生成AIの利用規約や、コンテンツの作成に人間がどの程度関与したかといった要素も考慮する必要があるでしょう。
コンテンツの利用許諾
第三者に対して、コンテンツをどのような範囲で利用することを許諾するのか明確に定める必要があります。利用目的(商用利用、非商用利用など)、利用方法(複製、改変、公衆送信など)、利用期間、利用地域などを具体的に規定することが重要です。
生成AIの利用規約でコンテンツの利用範囲が制限されている場合もありますので、注意が必要です。
著作権侵害への対応
提供・販売するコンテンツが第三者の著作権を侵害した場合の責任の所在や対応を明確に定める必要があります。例えば、コンテンツに著作権侵害があった場合、契約解除や損害賠償責任を負うことなどを規定することができます。
また、生成AIの開発事業者にも責任を負わせることができるかなども検討する必要があるでしょう。
表明保証
コンテンツの提供・販売者が、コンテンツの著作権に関して権利を有すること、または利用許諾を得ていることを表明保証する条項を入れることが重要です。これにより、第三者は安心してコンテンツを利用することができます。
AI生成物を含むコンテンツの提供・販売においては、従来のコンテンツ以上に著作権に関する複雑な問題が生じる可能性があります。 契約書の内容をよく検討し、専門家のアドバイスを受けることも検討することで、法的リスクを最小限に抑えることが重要です。
生成AIの著作権について困ったことがあれば弁護士へ相談を
生成AIと著作権の関係については、文化庁のガイドラインなどが提示されている一方で、まだまだ実務上の運用が確定していない部分が多いのが実情です。
また、安易な気持ちで生成AIによって作成したコンテンツなどを販売した結果、著作権者から損害賠償請求をされるケースも考えられます。
生成AI関係で少しでも不安があったり、困ったことがあったりする場合は、できるだけ早いタイミングで信頼できそうな弁護士まで相談してください。