事業承継における生命保険活用の注意点と得られる節税効果とは

生命保険

事業承継の準備には生命保険が利用できるという話を聞いたことがある方も多いかと思いますが、承継する事業の種類によって、また後継者との関係性や承継の方法によって、活用できる保険の種類が違うということまでご存じの方は少ないのではないでしょうか。

ここでは、事業承継の際に活用できる生命保険を、ニーズに応じて整理するとともに、メリットやデメリットも踏まえてご紹介いたします。

目次

事業承継において後継者=法定相続人の場合おこる問題

後継者が法定相続人である場合、下記3点の問題が生じることが予想されます。

  1. 後継者が相続税または贈与税を納税する資金が必要になる
  2. 株式以外の相続財産が少ない場合、後継者が他の相続人から相続分または遺留分を主張され、代償交付金を支払わなければならない可能性がある
  3. 後継者の社会的信用が少ないため、運転資金を融資してもらうことが難しくなるケースがある

これらの問題への対策として生命保険を利用する場合、3通りの方法が考えられます。

①生命保険に経営者が個人加入し、後継者のために必要な資金を準備する

後継者が「配偶者・二親等内の血族」であれば、あなたが個人契約で生命保険に加入し、受取人を後継者にしておくことができます(配偶者および二親等以の血族のどちらもいない場合には、例外として3親等内の血族もOKです)。

ここでいう二親等内の血族の範囲は、両親・祖父母・子ども・孫・兄弟姉妹ですが、両親や祖父母を後継者とすることは考えにくいので、『配偶者・子ども・孫・兄弟姉妹』が後継者の場合は、経営者が個人加入した生命保険で納税資金を準備することができると考えていただければ良いと思います。

注意点

ここで注意なのですが、子どもの配偶者や兄弟姉妹の配偶者・甥姪を後継者としたいような場合は、これらの人は生命保険の受取人である二親等内の血族に含まれないことから、あらかじめ養子縁組などをして法定血族になってもらう必要があるということです。

後継者が受け取る生命保険金は、民法上は相続財産にあたらないため、他の法定相続人の法定相続分や遺留分の対象になりませんから、後継者固有の財産として納税資金とすることができます。

また、生命保険金は相続税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象になるものの、「500万円×法定相続人数」の額について控除が受けられるため、その分に関しては相続税がかかりません。

以上のことから、後継者があなたから相続した株式について他の法定相続人が法定相続分や遺留分を主張してきた場合には、後継者は生命保険金を利用して代償交付金を支払うことができますし、相続した株式にかかってくる相続税の納税資金としても大変有効といえます。

②株式を生前贈与したい場合、逓増(ていぞう)定期保険・長期平準定期保険を利用して自社株の評価額を引き下げる

生前に後継者に株式を全部贈与したい場合は、後継者にかかる税金の額を抑えるために、自社株の評価額を引き下げることが重要になります。

株式価格の評価方法について、最もよく使われるのは「類似業種比準方式」という方法で、簡単に言えば「他の似たような業種・規模の会社と比べて適正な額を算定する」方法です。この方法で計算すると、大雑把に言えば「利益が圧縮されれば株式の価値が下がる」ことになります。

利益を圧縮するには、あなたの退職金の資金準備も兼ねて、「逓増(ていぞう)定期保険」や「長期平準定期保険」に加入する方法が有効です。これらの保険は保険料が高額で、その1/2を損金に算入することができるため、大きな損金を計上できる結果、利益が圧縮されて株式の評価額が抑えられることになります。

それぞれの利用条件と特徴について、以下に整理してみましたのでよろしければご覧ください。

逓増定期保険長期平準定期保険
概要5~10年後の事業承継を考えている場合に適している保険。
死亡保険金額が加入時から短期間のうちに当初の5倍程度まで増えていく定期保険。
20~30年後の事業承継を考えている場合に適している保険。
保険期間が大変長く、その間の死亡保険金額が変わらない定期保険。
保険料の額超高額高額
保険料の扱い1/2損金算入可、1/3損金算入可、1/4損金算入可のタイプがあり、使い勝手が良いのは1/2損金のタイプ1/2損金算入可
保険金額・給付金額超高額高額
保障範囲死亡・高度障害死亡・高度障害
解約返戻率の高さ90~100%(ピーク時:加入5~10年目くらいであることが多い)90~100%(ピーク時:加入20~30年目くらいであることが多い)
解約返戻金のピークの長さ短い長い
メリット・5~10年で保険料の1/2を損金に算入しながら退職金を準備できる
・保険料が超高額なため、利益の圧縮効果が大きい
・退職金支給時に大きな赤字を計上するリスクを減らすことができる
・20~30年かけて保険料の1/2を損金に算入しながら退職金を準備できる
・保険料が高額なため、利益の圧縮効果が見込める
・退職金支給時に大きな赤字を計上するリスクを減らすことができる
デメリット・超高額な保険料が会社のキャッシュフローを圧迫するリスクが大きい
・解約返戻金の受取と退職金支給のタイミングがずれると大幅な黒字を計上してしまうリスクがある
・高額な保険料が会社のキャッシュフローを圧迫するリスクが大きい
・解約返戻金の受取と退職金支給のタイミングがずれると大幅な黒字を計上してしまうリスクがある
活用条件・高額な保険料を支払える見通しがあること
・引退時期(退職金受取時期)が定まっていること
・引退時期と解約返戻金の受取時期(ピーク)が同じ年度になるように契約すること
・高額な保険料を支払える見通しがあること
・引退時期(退職金受取時期)が20~30年後に大まかに定まっていること
・引退時期と解約返戻金の受取時期(ピーク期間)が大体同じタイミングになるように契約すること

③株式を相続させたい場合、終身保険・長期平準定期保険で会社が後継者から自社株を買い取る資金を準備する

後継者に株式を相続で承継させたい場合、相続税の納税資金が足りなくなるおそれがあることから、会社法の「自己株式の買取」制度を利用することが考えられます。

この方法は、会社が後継者から自社株を買い取り、後継者が代金を受け取ってそれを相続税の納税資金に充てるというものですが、そのためには会社が自社株を買い取るための資金を準備しておかなければなりません。

そこで、会社が生命保険に法人契約で加入する=経営者であるあなたが死亡した際に会社が死亡保険金を受け取れるようにするという方法が有効といえます。生命保険の種類としては、終身保険または長期平準定期保険が考えられますが、いずれの保険も解約すれば解約返戻金が受け取れるものの、自社株式の購入資金として利用する場合には解約返戻金のことは考えず、死亡保険金を受け取ると仮定して考えましょう。

両者のメリットとデメリットは以下のとおりです。

終身保険長期平準定期保険
概要一生涯死ぬまで保障が続く保険で、必ず死亡保険金が支払われるもの。
貯蓄性が高いのが特徴。
保険期間が大変長い定期保険。
定期保険であることから、保険期間満了後まで被保険者が長生きすると保険金が受け取れない可能性がある。
メリット・必ず保険金が支払われるため、確実に自己株式買取資金を準備できる・保険料が比較的低額なので会社のキャッシュフローを悪化させるリスクが小さい
・保険料の1/2が損金に算入されるため、利益を圧縮できる
デメリット・高額な保険料が会社のキャッシュフローを悪化させるリスクが大きい
・保険料は全額が資産計上のため利益を圧縮できない
・保険期間満了後まで長生きすると保険金が1円も受け取れない

後継者が法定相続人でない場合の事業承継

後継者が法定相続人でない場合、下記3点の問題が生じることが予想されます。

  1. 無償譲渡の場合、後継者が贈与税を納税する資金が必要になる
  2. 後継者が法定相続人から遺留分を主張され、賠償義務を負う可能性がある
  3. 後継者の社会的信用が少ないため、運転資金を融資してもらうことが難しくなるケースがある

この場合、後継者がいずれまとまったお金が必要になることから、あらかじめその人の給与をある程度高めに設定して支給しておくことが基本的な対策となりますが、他に生命保険を利用してできる対策は、逓増定期保険・長期平準定期保険を利用して株式の価値を引き下げる方法だけと言っても良いでしょう

というのも、後継者に株式を買い取ってもらうのであれば買取価格を低く抑える必要がありますし、後継者に株式を無償で譲渡する場合には後継者にかかる贈与税額を少しでも低くする必要があることから、株式評価額を引き下げるという対策が有効になります。

このとき、株式価格を引き下げるためには、会社の利益を圧縮しなければならないため、会社が法人保険として逓増定期保険や長期平準定期保険に加入して、経営者であるあなたの退職金の準備をしながら保険料の1/2を損金に算入していくことが最も現実的な手段です。

事業承継時に生命保険を活用した自社株式評価を下げる4つの方法

前述したように、生命保険のうち保険料の損金算入が可能なものを利用することで、自社株式評価引き下げの効果を得ることができます。会社が好業績でキャッシュフローに余裕がある場合は、下記のうち複数の生命保険に加入して損金計上しながら内部留保の蓄積を図るのが良いでしょう。

損金性の高い生命保険は、主に下記の4種類が考えられます。

  1. 役員・従業員の保障と退職金積立目的の定期保険(全額損金または1/2損金)
  2. 役員の保障と退職金積立目的の逓増定期保険(1/2損金)
  3. 従業員の福利厚生目的の養老保険(1/2損金)
  4. 従業員の福利厚生目的のがん保険(全額損金)

※このうち①②に関しては前項でもご紹介いたしましたが、ここでも簡単に整理してみます。

役員・従業員の保障と退職金積立目的の定期保険・逓増定期保険

期中で解約返戻金(支払った保険料の60~100%)が貯まる保険で、解約返戻金を計画的に考慮して活用することが必要です。保険料を損金計上できる契約形態と契約内容による保険料の損金計上については下記のとおりです。

契約形態契約者法人
被保険者役員または従業員
死亡保険金受取人法人
契約内容保険契約の満了時の被保険者の年齢が70歳以下毎期全額損金処理
被保険者の加入時の年齢+保険期間×2≦105の場合
被保険者の加入時の年齢+保険期間×2>105の場合
保険期間の当初の6/10の期間の保険料
毎期1/2損金処理
(1/2は前払金)
保険期間の残りの4/10の期間の保険料+前払保険料の計上額を残りの期間に応じて毎期均等に取り崩して損金計上する毎期全額損金処理

前払金取崩保険料

従業員の福利厚生目的の養老保険

一定期間内に被保険者が死亡した場合には死亡保険金が支払われ、満期になった場合には満期保険金が支払われる保険です。貯蓄性の高い保険であり、通常は全額積立金処理となりますが、一定の要件を満たす場合には保険料の1/2が損金に算入できます。

従業員の福利厚生を主目的としながら退職金の準備資金と利益の繰延を図ることができ、損金計上によって利益を圧縮する効果=自社株式引き下げの効果があります。

契約形態契約者法人
被保険者従業員(役員も可)
死亡保険金受取人従業員(役員)の遺族
満期保険金受取人法人
加入条件
(恣意性のない普遍的加入)
従業員・役員が全員加入すること1/2損金算入可
入社後○年以上の社員は全員加入すること
※過去の疾病等による止むを得ない合理的な理由で加入できない人がいる場合はOKですが、加入者の大部分が同族関係者である場合は損金算入が認められない可能性があります。
保険金・保険料を退職給与規定等により合理的に算出して加入する等の計算根拠が必要

なお、死亡保険金の受取人が役員・従業員の遺族になるため、この保険契約による福利厚生制度の確立のための福利厚生規程の作成が必要になります。

従業員の福利厚生目的のがん保険

がん保険は、被保険者ががんになったときの保障を目的として、入院・手術・退院・死亡等の給付金が支払われる保険です。

一般的には10年更新のものと終身保障のものがありますが、短期払いのがん保険については105歳満了と仮定して計算した保険期間を払込期間で按分して損金の計算を行うため、全額損金処理にはなりません。そのため、契約は終身保障の終身払込みのものを選択し、契約者を法人、給付金の受取人を従業員とするのが主流です。

なお、従業員が直接受け取る給付金は、税務上は非課税となります。

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