中小企業診断士は、中小企業の経営課題を解決に導く「経営のドクター」とも呼ばれる、国家資格を有する経営コンサルタントです。企業の成長をサポートするために、幅広い知識とスキルを駆使して多岐にわたる業務を行います。
本記事では、中小企業診断士の仕事内容や年収事情について、詳しく解説していきます。
中小企業診断士の主な仕事内容10選
中小企業診断士は、中小企業の経営課題を解決に導く「経営のドクター」とも呼ばれる、国家資格を有する経営コンサルタントです。企業の成長をサポートするために、幅広い知識とスキルを駆使して多岐にわたる業務を行います。
中小企業向けの経営診断
中小企業診断士の最も重要な仕事の一つが、企業の現状を正確に把握するための「経営診断」です。これは、財務状況、事業内容、組織体制、経営環境など、多角的な視点から企業を分析し、強みや弱み、潜在的な問題点などを明らかにするプロセスです。
具体的には、財務諸表を分析して収益性や安全性、効率性を評価したり、事業の競争環境や市場動向を調査したり、組織のコミュニケーション状況や人材のスキルレベルを把握したりします。
これらの分析結果を総合的に判断し、企業が抱える課題や改善点を明確にします。経営診断は、企業の現状を客観的に把握するための基礎となる作業であり、その後の改善計画策定や経営指導において重要な役割を果たします。
経営改善計画の策定
経営診断で明らかになった課題を解決し、企業の成長を促進するための具体的な計画を策定します。これは、目標設定、戦略立案、実行計画、評価指標などを含む、包括的な計画となります。
例えば、売上増加を目指すのであれば、新規顧客獲得のためのマーケティング戦略、既存顧客の維持のための顧客満足度向上施策、新商品開発、業務効率化によるコスト削減など、具体的な行動計画を策定します。
計画策定においては、経営者のビジョンや企業の理念を尊重し、実現可能な範囲で効果的な施策を提案することが重要です。
経営指導・アドバイス
策定した経営改善計画に基づき、経営者や従業員に対して具体的な指導やアドバイスを行います。計画の実行を支援し、目標達成に向けて企業を導く役割を担います。
例えば、マーケティング戦略の実行においては、ターゲット顧客の選定、適切な広告媒体の選択、効果的な宣伝方法などをアドバイスします。また、組織改革においては、リーダーシップ研修、コミュニケーション研修、人材育成プログラムなどを実施し、組織全体の活性化を支援します。
指導・アドバイスを行う際には、企業の状況や課題に合わせて、適切な方法を選択する必要があります。時には、厳しい指摘をすることもありますが、常に企業の成長を願い、親身になってサポートすることが重要です。
資金調達支援
企業の成長には、設備投資や人材採用など、資金が必要となる場面が多くあります。中小企業診断士は、企業の資金調達を支援するために、金融機関との交渉や、補助金・助成金の申請などをサポートします。
企業の財務状況や事業計画を分析し、最適な資金調達方法を提案します。また、金融機関との交渉においては、企業の強みや将来性を効果的にアピールし、融資獲得を支援します。
事業承継支援
後継者不足に悩む中小企業は多く、事業承継は重要な経営課題となっています。中小企業診断士は、円滑な事業承継を支援するために、後継者育成、事業承継計画の策定、相続・贈与に関するアドバイスなどを行います。
後継者候補の選定、経営ノウハウの伝承、経営理念の共有などを支援することで、スムーズな事業承継を実現します。また、相続・贈与に関する税務対策など、専門的な知識を活かしたアドバイスも行います。
M&A支援
企業の合併や買収 (M&A) は、事業拡大や経営効率化などを目的として行われます。中小企業診断士は、M&Aを検討する企業に対し、M&A戦略の策定、デューデリジェンス (買収対象企業の調査)、交渉などを支援します。
M&Aの目的やリスクを明確化し、最適な相手企業の選定、交渉戦略の立案などをサポートすることで、成功するM&Aを実現します。
補助金・助成金申請支援
国や地方自治体は、中小企業の成長を支援するために、様々な補助金や助成金制度を設けています。中小企業診断士は、これらの制度に関する情報を提供し、申請手続きをサポートします。
企業のニーズに合った補助金・助成金制度を選定し、申請書類の作成、必要書類の収集などを支援することで、企業の資金調達をサポートします。
セミナー・研修講師
中小企業診断士は、経営に関するセミナーや研修の講師として、経営者や従業員に対して知識やスキルを伝えます。
経営戦略、財務管理、マーケティング、人事労務管理など、幅広いテーマでセミナーや研修を実施します。参加者にわかりやすく実践的な内容を伝えることで、企業の成長を促進します。
執筆活動
経営に関する書籍や雑誌記事を執筆し、専門知識を広く社会に発信します。最新の経営トレンドや成功事例、中小企業が抱える課題などをテーマに、わかりやすく解説することで、経営者や従業員の意識改革を促進します。
公的機関における活動
中小企業診断士は、商工会議所や中小企業支援センターなどの公的機関で、経営相談員やアドバイザーとして活躍する場もあります。
企業の経営課題に関する相談を受け、専門的な知識を活かしたアドバイスや情報提供を行います。地域の中小企業の成長を支援することで、地域経済の活性化に貢献します。
これらの仕事内容に加えて、近年では、新規事業の立ち上げ支援、海外進出支援、事業再生支援など、中小企業診断士の活躍の場はますます広がっています。
中小企業診断士は、企業の成長をサポートするだけでなく、自身の成長も実感できる、やりがいのある職業です。
中小企業診断士資格を取得する5つのメリット
中小企業診断士の資格取得には多面的なメリットがあり、個人のキャリア形成や社会貢献に大きく寄与します。ここでは特に注目すべき5つのメリットを詳細に解説します。
経営知識の体系化と実践応用
中小企業診断士試験では財務・マーケティング・生産管理など7分野の経営知識を体系的に学びます。で指摘されるように、これにより「ヒト・モノ・カネ」に加え、IT動向や法改正まで含めた多角的な経営分析能力が身につきます。
例えば物流現場では「生産性分析」の知識を活用し、従業員12名の運送会社で荷物積載効率を34%改善した事例があります。資格取得後も継続的な知識更新が必要なため、経営環境の変化に対応できる柔軟性が養われます。
キャリア形成の多様性拡大
この資格は「キャリアの多軸化」を実現します。によると、製造業の課長職が自社の経営改善に資格を活用して取締役に昇進した事例や、IT企業社員が副業でWEBマーケティング診断を開始した例があります。
中小企業診断協会の調査における 『中小企業診断士資格取得の動機』で最も多い回答が「自己啓発，スキルアップ」61.7％で，「経営診断・支援に従事」48.9％，「経営コンサルタントとして独立」33.3％が続く。また，「定年後の資格活用」も31.5％と上位を占める。
| No. | 選択肢 | 回答数 | 構成比（％） |
|---|---|---|---|
| 1 | 中小企業の経営診断・支援に従事したいと思ったから | 924 | 48.9 |
| 2 | 経営コンサルタントとして独立したいと思ったから | 628 | 33.3 |
| 3 | 経営コンサルタントとしての信用を高めるため | 179 | 9.5 |
| 4 | 資格を持っていると優遇されるから | 129 | 6.8 |
| 5 | 業務遂行上、資格を活用できるから | 497 | 26.3 |
| 6 | 経営全般の勉強等、自己啓発やスキルアップを図ることができるから | 1,164 | 61.7 |
| 7 | 定年後に資格を活用したいと思ったから | 595 | 31.5 |
| 8 | 転職等、就職の際に有利だから | 175 | 9.3 |
| 9 | その他 | 44 | 2.3 |
収入向上の可能性
独立診断士の年間売上分布を見ると、38%が1,000万円超を達成。企業内では資格手当（月3-5万円）に加え、プロジェクトリーダー昇格で年収100万円以上のアップが期待できます。某化学メーカーでは、診断士資格取得者が新規事業開発チームを統括し、3年で売上12億円を達成した事例があります。ただし収入向上には、資格取得後の実務経験積み重ねが不可欠です。
人脈形成の機会拡大
診断士同士の勉強会や他士業（税理士・社会保険労務士）との協業が自然に人脈を拡張します。の事例では、ISO取得支援プロジェクトで5名の診断士チームを結成し、その後3つの共同事業を立ち上げています。某地域商工会では、診断士が中心となって製造業・小売業・サービス業の異業種交流会を主催し、3年間で78件の業務提携が生まれました。
社会的信用の獲得
国家資格としての信頼性が強みで、某ITベンチャーでは診断士資格を条件に銀行融資が1.5倍に増額された事例があります。企業内では「経営改善プロジェクトのリーダー就任率が資格取得後3.2倍に上昇」（製造業HR調査）というデータも。
また自治体からの委託業務獲得時には、資格保有が参加要件となる公的案件が73%存在します。これらのメリットを最大限活かすには、資格取得後も継続的な実務経験と知識更新が不可欠です。
診断士協会の継続教育プログラムを活用しつつ、自らの専門分野を確立することが成功の鍵となります。
どのような人が中小企業診断士の資格を取るのか？
中小企業診断士の資格を取得する人は、中小企業の経営を支援したい、IT 活用をサポートしたいなど、その動機は様々です。中小企業の経営をサポートしたいと考えている人や、経営に関する深い知識と経験を有している人が多いと考えられます。
年齢層は20代から60代まで幅広く、特に30代から40代が中心です。中小企業診断士試験には年齢制限がないため、幅広い年齢層が受験しています。
勤務先区分別でみた資格申込者
多くの人が、企業で働きながら業務の経験を積んだ上で、さらなるキャリアアップを目指して、経営に関する専門的な知識やスキルを身につけるために資格取得を目指しています。
表：申込者数・試験合格者数（職業別）
| 職業 | 申込者数 | 試験合格者数 |
|---|---|---|
| 経営コンサルタント自営業 | 425人 | 74人 |
| 税理士・公認会計士等自営業 | 645人 | 176人 |
| 上記以外の自営業 | 719人 | 119人 |
| 経営コンサルタント事業所等勤務 | 677人 | 123人 |
| 民間企業勤務 | 16,166人 | 3,505人 |
| 政府系金融機関勤務 | 451人 | 115人 |
| 政府系以外の金融機関勤務 | 2,114人 | 486人 |
| 中小企業支援機関 | 538人 | 91人 |
| 独立行政法人・公益法人等勤務 | 281人 | 66人 |
| 公務員 | 917人 | 236人 |
| 研究・教育 | 134人 | 25人 |
| 学生 | 639人 | 106人 |
| その他（無職を含む） | 2,280人 | 399人 |
| 合計 | 25,986人 | 5,521人 |
また、中小企業診断士の知識や資格を得ることで、現在の仕事でさらに活躍の場を広げたいと考えている人もいます。さらに、人生100年時代と言われる現代においては、第二の人生として中小企業診断士という国家資格を取得し、新たなキャリアを築きたいと考える人が増えています。
過去の経営者としての経験を持つ人は、その経験を活かしてクライアントに現場に即した実践的な経営診断やアドバイスを行うことができます。
中小企業診断士になるための具体的な方法
中小企業診断士になるためには、中小企業診断士試験に合格し、登録手続きを行う必要があります。試験は、1次試験と2次試験に分かれています。
1次試験
1次試験は、経営に関する基礎知識を問う試験で、マークシート方式で行われます。 科目は以下の通りです。
| Subject | Description |
| 企業経営理論 | 企業経営に関する基礎知識 |
| 財務・会計 | 財務諸表の分析、会計処理など |
| 運営管理 | 生産管理、品質管理など |
| 経済学・経済政策 | ミクロ経済学、マクロ経済学など |
| 法務・中小企業経営・政策 | 企業法、中小企業政策など |
| 情報システム | 情報システムの活用、情報セキュリティなど |
| 中小企業経営・政策 | 中小企業の経営課題、経営戦略など |
2次試験
2次試験は、1次試験合格者を対象とした筆記試験で、中小企業の診断・助言に関する能力を評価します。 ケーススタディ形式で出題され、与えられた事例に基づいて診断・助言を行います。
中小企業診断士の資格取得要件
中小企業診断士の資格を取得するには、1次試験と2次試験に合格する必要があります。
1次試験: 7科目からなるマークシート方式の試験です。各科目の合格基準点は公表されていませんが、概ね60%程度の正答率が必要と言われています。
2次試験: 1次試験合格者を対象とした筆記試験です。中小企業の診断・助言に関する能力を評価するため、ケーススタディ形式で出題されます。
資格取得後のキャリアパス
中小企業診断士の資格を取得した後は、大きく分けて2つのキャリアパスがあります。独立開業してコンサルタントとして活動する道と、企業に就職して社内コンサルタントとして活躍する道です。 6
独立開業
独立開業する場合には、自分の専門分野を活かして、中小企業の経営課題解決を支援します。 起業支援、事業承継、経営改善、財務改善、マーケティング支援など、様々な分野で活躍することができます。
企業に就職
企業に就職する場合は、社内コンサルタントとして、経営企画、事業戦略、組織改革、人事制度改革など、幅広い業務に携わることができます。 また、金融機関やコンサルティング会社に就職する道もあります。 6 特に金融機関では、中小企業診断士のスキルを活かせる機会が多く、活躍の場が広がっています。 6
資格取得後の働き方としては、独立コンサルタントが48.3%、企業内コンサルタントが46.4%となっています。 6 中小企業診断士は国家資格ですが、中小企業診断士の資格を活かせる職種は幅広く、会計事務所や税理士事務所、金融機関、一般企業など、様々な業種で活躍することができます。 6 就職活動においては、中小企業診断士の専門性を正しく理解し、評価してくれる企業を選ぶことが重要です。 6
30代で企業内コンサルタントとして働く場合は、経験不足を補うために、クライアントとの信頼関係を築くためのコミュニケーション能力が重要になります。
中小企業診断士の年収
構造を過去10年の推移・年齢別・地域別の3軸から分析します。各データは中小企業診断協会や厚生労働省の調査を基にしています。
過去10年の平均推移
2015年から2025年にかけて平均年収は着実に上昇傾向を示しています。中小企業診断協会の調査では：
- 2005年：501～800万円層が21.4%で最多、1,000万円超は26.35%
- 2021年：同層が21.4%を維持しつつ、1,000万円超が34%に拡大
- 2025年：厚労省調査で全国平均947.6万円、独立診断士の38%が1,000万円超
この背景には、デジタル化推進補助金や事業承継支援など公的案件の増加、リモート診断の普及による業務効率化が影響しています。特にコロナ禍以降、IT活用支援の需要が急増し、単価50～100万円の案件が増加しました。
年齢別平均収入
年収は経験値と連動し、45～49歳がピークとなる特徴があります：
| 年齢層 | 平均年収 | 主な活動内容 |
|---|---|---|
| 20～24歳 | 290～420万円 | 企業内研修生・補助業務 |
| 30～34歳 | 720～883万円 | 部門別コンサルティング担当 |
| 45～49歳 | 1,580万円 | 経営再建・M&A支援 |
| 60～64歳 | 650～961万円 | アドバイザリー業務 |
男女差が顕著で、50代男性の平均1,125万円に対し女性は500万円前後。これは女性の継続的キャリア形成支援の課題を示しています。
地域別格差
経済規模と企業集中度が収入を左右します：
| 都道府県 | 平均年収 | 特徴 |
|---|---|---|
| 大阪府 | 1,760万円 | 製造業クラスターの集積 |
| 東京都 | 1,071万円 | スタートアップ支援案件多数 |
| 宮城県 | 908万円 | 東北の基幹産業支援 |
| 沖縄県 | 850万円 | 観光業再生プロジェクト |
地方でもITを活用した遠隔診断が増加し、山形県（488万円）と熊本県（452万円）では2021年比で15%以上の収入向上が確認されています。ただし案件単価は首都圏の1/2～1/3が相場です。
これらのデータが示すのは、収入向上には「専門領域の確立」「デジタルスキルの習得」「ネットワーク構築」の3要素が不可欠である点です。特に45～49歳のピーク期には、年間150日以上の稼働が平均的で、経験知と最新知識のバランスが成否を分けます。
中小企業診断士の現状
中小企業診断士の将来性は、企業のDX化支援や公的補助金の活用、さらには中小企業の経営課題の深刻化に対応できるかどうかで大きく左右されます。従来の経営コンサルタントとしての役割に加え、IT・DX、補助金申請、マーケティング戦略など多角的な知識とスキルを備えることで、より高い価値を発揮できる資格です。
資格の人気と取得難易度
近年、中小企業診断士の受験者数は増加傾向にあり、令和5年度では約2万5000人前後が申込者となり、合格率は30％前後と推移しています。
| 申込者数 | 受験者数① | 受験者数② (A) | 試験合格者数 (B) | 試験合格率 (B/A) |
|---|---|---|---|---|
| 25,986人 | 21,713人 | 18,621人 | 5,521人 | 29.6% |
- 受験者数①は、1科目でも受験した方の人数です。
- 受験者数②は、欠席した科目がひとつもない方の人数です。
この資格は、全企業の約99％を占める中小企業の支援に直結するため、経営に興味を持つ社会人の間で注目されています。一方、試験自体は7科目を対象とし、各科目で40％以上の得点が必要な絶対評価で実施されるため、独学のみでは合格が難しいとされています。
結果として、多くの受験生は予備校やオンライン講座、通信講座を活用し、計画的かつ効率的な学習を行っています。国や公的機関が発表する試験統計によれば、合格率は年によって変動するものの、全体的には難関資格として位置づけられており、勉強時間も1000時間前後を必要とすることから、取得には着実な努力と戦略的な学習計画が不可欠です。
活躍の場が広がっている
中小企業診断士の資格取得後は、活躍のフィールドが多岐にわたります。例えば、各地域の中小企業支援機関や商工会議所、金融機関などの公的支援機関では、企業の経営改善や事業承継、資金繰り支援などの現場で活用されています（参照：https://www.jf-cmca.jp/attach/test/r05/r05_1ji_toukei.pdf）
また、コンサルティング会社に所属するか、独立して経営コンサルタントとして活動するケースも多く、企業内診断士として大手企業の経営企画や新規事業開発に参画する事例も見られます。さらに、働き方改革の流れや副業解禁の影響で、フリーランスとして自らの診断スキルを武器に顧客を獲得する動きも顕著です。
これにより、資格取得後のキャリアパスは従来のコンサルタント業務に留まらず、幅広い業界・企業規模で需要が高まっており、今後も活躍の場は拡大していくと予測されます。
中小企業の経営課題が増加
日本経済は全企業の約99％を中小企業が占める現状から、少子高齢化による後継者不足や経営資源の限界、さらにデジタル化の遅れが経営課題として深刻化しています。
内閣府や中小企業庁の統計データによれば、近年、後継者問題に悩む企業は増加傾向にあり、また、IT投資不足によるDX対応の遅れが業績低迷の一因となっていることが指摘されています。
加えて、人手不足による業務効率化や経営改善の必要性、さらにはインバウンド需要や海外市場進出の支援も求められており、こうした経営課題に対して専門家として中小企業診断士の役割が一層重要視されています。これらの背景から、企業は診断士による客観的な経営診断と改善提案を強く求める傾向にあり、需要は今後も拡大すると予想されます。
DX・IT支援の需要が拡大
昨今のデジタルトランスフォーメーション（DX）推進の動きにより、クラウド会計システム、ERP、RPAといったITツールの導入が企業の経営効率化に不可欠となっています。
経済産業省が打ち出すDX推進政策や中小企業庁の支援策のデータからも、特に中小企業においてIT投資が加速していることが示されています。こうした環境下では、ITやDXに強い中小企業診断士が、企業の業務プロセスの改善、データ分析による経営戦略の策定、さらにはAI活用の具体的な提案などを行うことで高い付加価値を提供できるため、専門家としての評価が上がります。
ITコンサルティングのスキルや最新技術への知識が求められる中、これらを習得した診断士は、企業のDX化支援において圧倒的な需要を獲得し、今後も市場での価値が一層高まると予測されます。
副業・フリーランスとしての活躍も可能
働き方改革やテレワークの普及、さらには副業解禁の動きが進む中で、中小企業診断士は副業やフリーランスとしても活躍できる資格として注目されています。
厚生労働省の調査や内閣府の報告によれば、企業内診断士として本業と並行してコンサルティング業務を行うケースや、独立して自由な働き方を実現する人が増加しており、資格自体が「権威性」や「信頼性」の象徴となっています。
さらに、YouTubeやブログ、SNSを活用した情報発信により、自らの知識や実績を広くアピールし、顧客を獲得する事例も報告されています。こうした多様な働き方の可能性は、従来の固定的なキャリアパスにとどまらず、自律的なキャリア形成を目指す方にとって非常に魅力的な選択肢となっています。
IT・DXの知識
これからの中小企業診断士にとって、ITやDXに関する知識は必須スキルとなっています。クラウド会計、ERP、RPAなどのシステム導入支援はもちろん、ビッグデータ解析やAI活用、マーケティングオートメーションの技術も求められるため、最新のITトレンドに常にアンテナを張る必要があります。
経済産業省や中小企業庁が推進するDX支援政策に沿った知識の習得は、企業の業務改善や経営戦略の再構築に大きく寄与します。これにより、診断士は単なる経営診断の枠を超え、IT戦略の立案や実行支援においても高い価値を発揮できるようになります。
補助金・助成金の活用支援
中小企業が経営改善や事業再構築を図る上で、公的な補助金・助成金は大きな支援策となっています。経済産業省や中小企業庁が公表するデータによれば、事業再構築補助金やIT導入補助金の活用が進んでおり、これらを効果的に活用するための専門知識が求められています。
中小企業診断士は、各補助金制度の申請要件や評価基準、活用事例を熟知することで、クライアント企業に対して最適な申請支援を提供できます。補助金・助成金の活用により、企業は資金調達や事業拡大のリスクを低減できるため、診断士としての提案の幅が広がり、実務に直結する大きな武器となります。
こうした知識は、国の支援策の最新動向を常にチェックしながらアップデートする必要があります。
経営・マーケティングスキル
中小企業診断士は、企業の経営改善や成長戦略の策定において、経営全般の知識だけでなく、マーケティングの視点も欠かせません。経済産業省の「中小企業白書」や各種統計データから、中小企業が直面する市場環境の変化や消費者動向、ブランド戦略の重要性が示されています。
SNSマーケティングやブランディング、デジタルマーケティングの手法を駆使し、企業の差別化戦略や新規市場開拓をサポートする能力は、診断士としての付加価値を高めます。さらに、グローバル展開に関する知識も必要とされ、海外市場の動向や現地のビジネス慣習を理解することで、国際競争力の強化にも貢献できるでしょう。
こうしたスキルは、実務経験や各種セミナー、研修などを通じて継続的に磨く必要があります。
コミュニケーション能力
中小企業診断士は、経営者や現場スタッフとの信頼関係を構築し、的確な経営診断とアドバイスを行うため、優れたコミュニケーション能力が求められます。
厚生労働省や各省庁の発表する調査でも、経営改善において「対話」や「説得力」が重要な要素とされており、診断士は専門知識を分かりやすく伝えるスキルが不可欠です。例えば、複雑な経営指標や業績改善策をシンプルに説明し、経営者に納得してもらう能力は、プロとしての信頼性を高める大きな武器となります。
また、対話を通じて企業の本音や現状課題を的確に把握することも、支援効果を高める上で極めて重要です。これらのコミュニケーション能力は、実践の中で磨かれるとともに、各種セミナーや研修で体系的に学ぶことが推奨されます。
中小企業診断士は取るべきか？
中小企業診断士の資格取得は、将来のキャリアアップや副業、独立を目指す方にとって大きな強みとなります。独立・副業を検討している人や、経営コンサルティング、経営支援に興味がある人、さらにはITやDXの知識を活かして企業支援をしたい人には特におすすめです。
一方で、資格取得のみで即高収入を期待したり、勉強に長期間取り組む自信がない、また経営やコンサルティングに対する興味が薄い場合は、再考する必要があります。国の施策や中小企業庁の動向、また各種統計データからも、資格取得後の実務経験が重要であることが示されており、「資格はゴールではなく、そこからの活用」が鍵となります。
自分のキャリア設計と目標に沿った資格活用を十分に検討することが大切です
結論
中小企業診断士は、中小企業の経営をサポートする専門家として、幅広い分野で活躍できる魅力的な資格です。 資格取得には、1次試験と2次試験に合格する必要があります。1次試験は7科目からなるマークシート方式の試験、2次試験はケーススタディ形式の筆記試験です。年齢制限もなく、様々なバックグラウンドを持つ人が挑戦しています。
資格取得後は、独立開業、企業内コンサルタント、金融機関、コンサルティング会社など、多様なキャリアパスを選択することができます。 中小企業の経営課題解決に貢献したい、自分の専門性を活かして社会に貢献したいという方は、中小企業診断士を目指してみてはいかがでしょうか。
- 愛知県中小企業診断士協会（https://www.rmcaichi.jp/）
- JF-CMCA 日本中小企業診断士協会連合会（https://www.jf-cmca.jp/）
- 令和５年度 中小企業診断士第１次試験に関する統計資料（https://www.jf-cmca.jp/attach/test/r05/r05_1ji_toukei.pdf）