マミートラックとは|注目の背景と現実・女性ができる5つの対策まで

マミートラックとは

マミートラックとは、仕事と子育てを両立する女性が昇進・昇格などから遠ざかってしまう状態を指します。1988年にアメリカで生まれた言葉で、マミーは母、トラックは陸上競技の周回コースという意味があります。

もともとは「仕事と子育てを両立する女性のための労働時間や業務量に配慮した働き方」というポジティブな意味の言葉でした。しかし近年では「育児復帰後の女性がもとの業務に就けず、キャリアコースから外れてしまう」というネガティブな意味で使われることが多くなっています。

「キャリアも家庭も両立させたい」というやる気に満ちあふれた女性が直面するのが「マミートラック」という現実です。マミートラックが原因で仕事にやりがいを持てなくなり、退職を選択する女性も少なくありません。

近年は出産・育児で退職することなく職場復帰できる女性が増え、女性の社会進出は活発化しているといえます。しかし家事・育児の大半を担うのが女性であるという実情に大きな変化はなく、女性が希望するキャリアを諦めざるを得ないというケースが数多く見受けられます。

今回はマミートラックとは何かを解説するとともに、マミートラックの問題点と会社・女性の立場でできることを紹介します。

目次

マミートラックの注目背景とデータからみる現状

育児期にある女性と仕事の関係をみると、一昔前は「育児をする女性が退職するのが当たり前の時代」でした。社会の価値観が変化するのにともない制度も少しずつ整備され、今では「育児と仕事を両立しやすい時代」になってきているといえるでしょう。

一方で、「育児と女性自身が望むキャリアの両立」は、まだまだ難しいと言わざるを得ません。

共働きが主流の時代に

マミートラックを走ることになるのは、主に30代~40代の育児期にある女性です。今40歳前後の方が幼い頃、つまり1980年代前半の日本は、圧倒的に専業主婦が多い時代でした。1980年を例にとると、専業主婦世帯は1114世帯に対し、共働き世帯は614世帯となっています。

しかし1992年には共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回り、2007年には共働き世帯が1000万世帯を突破。そして令和を迎えた2019年には専業主婦世帯が575世帯、共働き世帯が1245世帯と、共働きが主流といえる時代になっています。
参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構|専業主婦世帯と共働き世帯

時代は変わっても夫の家事・育児参加時間は少ない

共働き世帯が主流になった現代において、なぜ「育児と女性自身が望むキャリアの両立」が難しいのかといえば、大きな理由のひとつが夫の家事・育児時間の少なさにあります。

内閣府の資料によれば、6歳未満の子どもをもつ夫の育児・家事関連時間(1日あたり)は、平成28年で1.23時間、そのうち育児時間は0.49時間です。これに対して妻の育児・家事関連時間が7.34時間、そのうち育児時間は3.45時間です。

【妻】6歳未満の子どもをもつ夫婦の育児・家事関連時間の推移

驚くべきは、妻の就労形態(共働きか専業主婦か)にかかわらず、夫が家事・育児に費やす時間は低調だという点です。

参考:令和3年社会生活基本調査(生活時間及び生活行動に関する結果)

結局、キャリアを諦めるのは妻になる

政府は「女性活躍推進」を掲げるものの、現状としてはその言葉だけが先走っている点は否めません。夫の家事・育児時間が少ないからといって妻のほうも、家事・育児時間を減らせるわけはなく、妻への負担が重くのしかかります。

もちろん夫が家事・育児に時間をかけられないのには、夫の職場で理解を得られにくいという背景があります。育休をとろうとする男性社員や、家庭のために残業を拒む男性社員に対して、深い理解を示す上司がいる職場は残念ながら少数派です。女性の働く意欲に、社会の考え方や会社の制度・環境が追いついていないのが実情なのです。マミートラックはこの時代を背景とする問題だといえるでしょう。

マミートラックの問題点

マミートラックを走ることなると、どのような問題が生じるのでしょうか。

マミートラック自体は悪ではない

まずはマミートラックそのものが悪ではないという点をお伝えしておきます。育児期にある女性の中には「育児が落ち着くまでは業務量、責任ともに抑えて働きたい」と考える方も大勢います。マミートラックには次のようなメリットがあるからです。

  1. 無理な残業を頼まれにくい
  2. 子どもとの時間をとりやすい
  3. 妻が早く帰り家事・育児を担うことで夫の支えにもなる
  4. 退職のようにキャリア自体が途絶えることを回避できる

この場合はマミートラックを本来のポジティブな意味でとらえることができ、女性が自ら望んでマミートラックを選択しているわけです。

女性が出世コースから外れる

一方で、不本意にもマミートラックを走ることになってしまう人もいます。以前と同じようにバリバリ働きたいけれど、残業や出張ができないなどの制約によって出世コースから外れてしまうケースです。

つまりマミートラックは、それ自体が問題なのではなく、「女性自身の意思に反してキャリアが変わってしまうこと」が問題なのです。

評価や給与が下がる

日本では成果ではなく時間に対して評価する傾向が根強く残っています。たとえば上司が「他の社員に比べて時間に制限がある女性に重要な業務を任せられない」と考えた場合、単純業務にしかつけずに社内の評価が下がってしまうことになります。結果として昇進・昇格が難しくなるでしょう。

また時間が給与に反映される給与体系によって、子どものお迎えがあり残業ができない、時短勤務であるなどの理由から給与額がどうしても下がってしまいます。

モチベーションが低下する

評価や給与が下がることで、女性のモチベーションが大きく低下します。評価や給与以外にも、次のような理由からモチベーションが低下する女性が多くいます。

  1. 周囲の人が気を遣うことで頼られる機会が減った
  2. 以前と同じ業務に就けなくなった
  3. これまで後輩だった人が昇進して役職者になったことで不公平感を抱き、やる気が失われた

精神的に居づらくなる

女性自身が精神的につらくなり、職場に居場所がないように感じてしまうのもマミートラックの問題点です。仕事と育児を両立させている女性の多くは周囲への罪悪感を抱いています。急に早退する必要性が生じたときには同僚にフォローを頼むことになり、負担が大きくなってしまう同僚の姿に「いつも悪いな」と感じるのです。

他の社員と比べて会社に貢献できていないという劣等感や、飲み会に参加できないなどの理由でコミュニケーションが不足し孤立感を抱くこともあります。

マミートラックの問題に対して会社ができること

マミートラックの問題を解消するために、会社は何ができるのでしょうか。

思い込みは捨てて女性の意思を確認する

マミートラックは女性がその意思に反して不本意なキャリアを選択することなので、会社はまず、女性の本当の気持ちを知る必要があります。

会社としては育児期にある女性の大変さを考慮して「よかれ」と思い、時短勤務を提案したり軽微な業務をさせたりするわけですが、それが本当に女性の希望なのかを確認しなくてはなりません。

マミートラックの問題の多くは、会社と働く女性との間のコミュニケーション不足で起きています。

会社や上司の考えを押しつけるのは「マタハラ」に

子どもがまだ小さいのだから家庭を優先するべきだろう」というのは、一方的な押しつけです。家庭ごとに考え方が違いますし、専門家の間でさえも「子どもが小さいうちは母親が家にいるべき」という意見で一致しているわけでもありません。

会社や上司の押しつけがエスカレートし、次のようなことをすればマタハラ(マタニティ・ハラスメント)になります。

  1. 出産や育児を理由に自主退職を勧める
  2. 簡単な業務しか与えないなどの嫌がらせをする
  3. 子どもの発熱で早退する女性に「早く帰れてうらやましい」などと発言する

会社はマタハラ防止措置をとることが法律で義務づけられています(男女雇用機会均等法第11条の2、育児・介護休業法第25条等)。

融通のきく制度を導入する

時代や女性のニーズにあわせ、融通のきく制度の導入を検討するのも方法です。たとえば時短勤務のほかに在宅勤務やフレックスタイム制度などが考えられます。

新制度を導入することで会社にはメリットもあります。たとえば在宅勤務の前例ができれば台風などの災害時や感染症対策など有事でも対応がスムーズです。フレックスタイムにすれば通勤時の混雑を避け、社員のストレスを軽減できるでしょう。

他の社員の理解を求める

育児期の女性が職場での居づらさを感じないようにするには、他の社員の理解を求めることが大切です。フォローを依頼したときに冷たい態度をとられたり、「○○さんは育児があるから頼めないよね」といわれたりして女性がつらく感じるのは、周囲の理解がないことが原因です。

自らの立場でも起こりえる問題だと認識させることで、「お互い様」の意識が生まれます。たとえば「病気やケガで一時的に職場に通えなくなったときにキャリアを奪われたらどう思うのか?」と問いかけることも有効でしょう。

成果に対する評価制度を整える

評価対象を労働時間から成果へとシフトするのも方法です。時短勤務だろうとフルタイム勤務だろうと、成果をだせば評価するという仕組みづくりです。残業を削減して生産性を上げることにもつながります。

女性自身ができるマミートラック対策

マミートラックの問題と直面した女性自身にもできることがあります。

キャリアに関する自分の希望は何かを考える

今後のキャリアについて自分自身がどう考えているのかを明確にしましょう。「自分でもどうしたいのかわからない」という気持ちになるのは理解できますが、それでは会社や上司、周囲の人もどうすればよいのかわかりません。手探りの子育ての中で気持ちに変化は起きて当然なので、「とにかく今はこう思う」という点を整理してみましょう。

自分の希望を上司や周囲にしっかり伝えておく

自身の希望が整理されたら、上司や周囲にしっかり伝えることが大切です。会社は善意のつもりで時短にしたり負担の少ない仕事を担当させたりしている可能性があるからです。

本当の希望を知ってもらうためには、上司や周囲の人たちとこまめにコミュニケーションをとる必要があります。

フォローするスタッフへの対策をしておく

育児のために残業ができなかったり早退したりすることについて申し訳ないと思う必要はありませんが、その穴埋めのために周囲がサポートしていることもまた事実です。

そのため単に希望を伝えるだけではなく、できるだけ周囲の負担をかけないための配慮や対策も考えておきましょう。

(例)

  • 自分の手があいているときは積極的に手伝いをする
  • フォローするスタッフが困らないよう連絡体制を整えておく
  • 連絡しなくてもマニュアルを見ればわかるように詳細のマニュアルを作成しておく

焦らず長期的な視点をもつ

思うように仕事の時間をとれない現状に焦る気持ちはよく理解できますが、重要なのは長期的なキャリア形成です。焦らず長期的な視点を持ち続ける必要があります。

たとえば限られた時間で働く今だからこそ、作業効率を向上するためのスキルを身につけることができます。働き方改革の影響もあり、「残業せずに生産性を上げる」ことの重要性が叫ばれています。

会社が残業削減に舵をきったとき、限られた時間の中で成果をだすことに注力してきた女性のスキルが役に立つはずです。余力があるのなら、社内で評価される資格を取得してもよいでしょう。

家族などの協力体制を整えておく

職場復帰にあたり、家族からどのようなサポートが受けられるのかについて両親や夫とよく話し合っておくことも大切です。家族がサポートを約束してくれれば、会社に対して「家族が協力してくれます」と伝えられるため、会社の安心感につながります。

結果として希望しないキャリアを提示されるリスクを下げることができるでしょう。

まとめ

仕事と育児の両立に励む女性が意図せず出世コースから外れてしまうと、女性の活躍を妨げることになります。会社は女性とコミュニケーションをよくとり、できるだけ希望にそった働き方をかなえられるよう努力することが大切です。女性の側も自身の希望を明確にし、長期的なキャリアを見据えた行動が必要となるでしょう。

参考

  • URLをコピーしました!
目次