中小企業診断士の年収は、個人の能力や経験、勤務形態、地域などによって大きく異なります。全国平均947万円程度ですが、高い専門性と豊富な経験を持つ診断士は1000万円を超える年収を得ることも可能です。
年収を向上させるためには、継続的なスキルアップと実績の蓄積、そして効果的なセルフブランディングが重要です。また、独立や法人所属など、自身のキャリアプランに合わせた働き方を選択することも、年収向上の鍵となるでしょう。
中小企業診断士は、中小企業の経営改善に貢献する重要な役割を担っており、その専門性と経験に応じた報酬が得られる職業と言えます。ただし、年収は個人の努力と市場の需要によって大きく変動するため、常に自己研鑽を怠らず、クライアントのニーズに応える高品質なサービスを提供し続けることが、安定した高収入につながる道といえるのではないかと。
本記事では、中小企業診断士の年収事情について、詳しく解説していきます。
[令和5年度]中小企業診断士の平均年収|年齢別・地域別
中小企業診断士の平均年収は、データによって若干の差がありますが、おおよそ800万円から950万円程度です。厚生労働省の調査によると、全国平均で947.6万円となっています。
一方、中小企業診断協会のアンケートでは、501~800万円が最も多い回答となっています。
年収1,000万円以上の中小企業診断士は全体の約34%を占めており、高収入を得られる可能性が高い職種といえます。ただし、この数字は一つの目安に過ぎず、実際の年収は個人の経験、スキル、勤務形態、勤務先、そして仕事の内容によって大きく変動します。
企業に勤務する「企業内診断士」と独立して活動する「独立診断士」では、収入構造が大きく異なります。また、副業として中小企業診断士の資格を活用するケースも多く、その場合は本業の給与に加えて副収入を得られるとされています。
中小企業診断士の年齢別年収
中小企業診断士の年収は、年齢によっても変化します。
- キャリア初期:20代から30代前半にかけては、年収は比較的低く、400万円から700万円程度
この時期は経験を積み、スキルを向上させる重要な期間と言える。 - 中期キャリア:30代後半から40代にかけて、年収は急激に上昇する傾向
この時期には800万円から1,000万円を超える年収を得る診断士も増える - ピーク期:45~49歳頃がピークとなり、平均年収が1,580万円程度に
この時期は経験と専門性が最も高く評価される時期 - 後期キャリア:50代以降は若干下がる傾向に
それでも900万円から1,100万円程度の高い年収を維持できる可能性がある
20代から30代の中小企業診断士の年収
資格を取得したばかりの20代~30代は、企業内診断士の場合で年収400万円~500万円が一般的です。フリーランスの場合は、実績が少ないため、初年度は300万円程度になることもありますが、営業力やネットワークの構築次第で収入を大きく伸ばせます。
40代から50代の中小企業診断士の年収
40代~50代は経験と実績を積み、フリーランスでも企業内でも収入がピークを迎える時期です。40代では約900万円から1,580万円と大きく上昇し、45~49歳がピークで1,580万円となっています。
フリーランスの場合、1件あたりのコンサルティングフィーが高まり、年収1,000万円以上を狙える人も増えます。企業内では役職が上がることで700万円以上の年収が期待できます。
60代以上:経験を活かした収入モデル
定年退職後も診断士資格を活かし、フリーランスとして活躍する方が多いです。50代では約924万円から1,125万円程度となり、60代以上では約500万円から920万円程度と若干下がる傾向にあります。ただし、これらの数字は平均値であり、実際の年収は個人の状況によって大きく異なる場合があります。
企業のアドバイザーや研修講師として働き、柔軟な働き方を選ぶ方もいます。収入は年300万円~700万円程度が目安です。
このように、20代や30代の若手診断士でも、高い能力を持ち、実績を積み重ねることで、より高い年収を得ている例も少なくありません。年齢に関わらず、継続的なスキルアップと実績の積み重ねが重要です。
中小企業診断士の地域別年収
中小企業診断士の年収は、地域によっても差があります。厚生労働省の職業情報提供サイトjobtagによると、以下のような地域差が見られます。
都道府県 | 平均年収(万円) | 都道府県 | 平均年収(万円) |
---|---|---|---|
北海道 | 461.1 | 滋賀県 | 520.1 |
青森県 | データなし | 京都府 | 595 |
岩手県 | 300.8 | 大阪府 | 1760.8 |
宮城県 | 908.2 | 兵庫県 | 519.7 |
秋田県 | 510.4 | 奈良県 | 429 |
山形県 | 488.4 | 和歌山県 | 568.2 |
福島県 | 578.4 | 鳥取県 | 440.9 |
茨城県 | 463.7 | 島根県 | 498.3 |
栃木県 | 636.9 | 岡山県 | 274.8 |
群馬県 | 544.1 | 広島県 | 447.2 |
埼玉県 | 590.5 | 山口県 | 434.1 |
千葉県 | 605.5 | 徳島県 | 581.5 |
東京都 | 1071.4 | 香川県 | 527.3 |
神奈川県 | 597.6 | 愛媛県 | 431 |
新潟県 | 503.5 | 高知県 | 324.7 |
富山県 | 444.2 | 福岡県 | 604.8 |
石川県 | 604 | 佐賀県 | 510.6 |
福井県 | 426.2 | 長崎県 | データなし |
山梨県 | 630.5 | 熊本県 | 452.2 |
長野県 | 653.6 | 大分県 | 381.5 |
岐阜県 | 597.4 | 宮崎県 | 496.1 |
静岡県 | 557.3 | 鹿児島県 | 594 |
愛知県 | 596.7 | 沖縄県 | 850.7 |
三重県 | 470.1 |
大都市圏、特に東京や大阪のような大都市圏での年収は高く、大阪では中小企業診断士の平均年収が1,760万円を超えることもあります。しかし、必ずしも大都市圏の年収が高いわけではなく、宮城県や沖縄県のように地方でも高い年収を得られる可能性があります。
地域による年収差が大きい背景
経済規模、企業数、競合の状況、生活コストなどさまざまな要因が影響しています。また、オンラインでのコンサルティングやリモートワークの普及により、必ずしも都市部に住む必要がなくなってきているため、地方在住でも高年収を得られる可能性が高まっています。
中小企業診断士として活動する際は、地域の特性や需要を理解し、それに合わせたサービスを提供することが重要です。また、地域を超えた活動や、特定の業界に特化したサービスを提供することで、地域に関わらず高い収入を得られる可能性があります。
フリーランスの場合の年収
中小企業診断士としてフリーランスで活動する場合、年収は個人の能力、経験、専門性、そしてクライアントネットワークによって大きく異なります。一般社団法人中小企業診断協会の調査によると、独立した中小企業診断士の年間売上は以下のような分布になっています:
- 501~800万円:19.9%(最多)
- 1,001~1,500万円:18.8%(2番目に多い)
- 801~1,000万円:14.9%
- 1,501万円以上:19.2%
この調査結果から、フリーランスの中小企業診断士の約38%が年間売上1,000万円以上を達成していることがわかります。ただし、これは売上高であり、実際の所得はこれより低くなります。
フリーランスとして高収入を得るためのポイントは以下の通りです。
- 専門分野の確立:特定の業界や分野に特化することで、高い報酬を得られる可能性が高まります。
- ネットワーク構築:クライアントや他の専門家とのネットワークを広げることで、案件獲得の機会が増えます。
- 継続的な学習:最新のビジネストレンドや技術を学び続けることで、高付加価値のサービスを提供できます。
- 複数の収入源の確保:コンサルティング、セミナー講師、執筆活動など、多様な収入源を持つことで安定した収入を得られます。
- 効率的な業務管理:時間管理やツールの活用により、より多くの案件をこなすことができます。
フリーランスとして活動する中小企業診断士は、自身の専門性と市場ニーズをうまくマッチさせることで、高い年収を得られる可能性があります。ただし、安定した収入を得るまでには時間がかかる場合もあるため、計画的なキャリア構築が重要です。
中小企業診断士の副業収入
中小企業診断士の副業収入は、個人の状況や取り組み方によって大きく異なりますが、一般的に高い収入を得られる可能性があります。
中小企業診断士の主な副業と収入の目安
- 経営コンサルティング:顧問契約を結ぶことで、月10万円程度の安定収入を得られる可能性がある
- セミナー講師:1回2時間あたり1.3~1.9万円程度の報酬が得られる
- 執筆業:原稿執筆料は1文字12~15円程度
- 補助金・助成金申請サポート:成功報酬型で、採択された場合に報酬を得られる
- よろず支援拠点コーディネーター:日給3万円程度で、月12日勤務の場合、月収36万円程度
実際の副業収入の例として、ある30代の独立診断士は年間720~750万円の収入を得ています。また、別の診断士は副業で年間300万円程度の収入を得ているケースもあります。
副業収入を増やすためのポイント
- 専門分野を確立し、高付加価値のサービスを提供する
- ネットワークを広げ、案件獲得の機会を増やす
- 時間管理を徹底し、効率的に副業に取り組む
- オンラインツールを活用し、地理的制約を超えて活動する
副業は収入面だけでなく、スキルアップや人脈拡大にも繋がるため、積極的に取り組むことをおすすめします。
会社から副業が認められている人の割合
「全面的に認められている」「一部認められている(許可制等)」の合計が47.0%と、約半数の会社で副業が認められている。
選択肢 | 回答数 | 構成比(%) |
1. 全面的に認められている | 60 | 12.1 |
2. 一部認められている(許可制等) | 173 | 34.9 |
3. 認められていない | 224 | 45.3 |
4. その他 | 38 | 7.7 |
回答数計 | 495 | 100.0 |
中小企業診断士の資格収入
まだ中小企業診断士の資格を取得していない場合、資格取得をすることで、直接的および間接的に収入を増やす機会が生まれることもあります。
- 資格手当:企業に勤務している場合、中小企業診断士の資格手当として月額1~3万円程度が支給されることがあります。年間で12~36万円の収入増加になります。
- 昇進・昇給:資格取得により、より重要な役割やポジションを任されやすくなり、昇進や昇給につながる可能性があります。
- 転職による収入増:中小企業診断士の資格を活かして、より高収入の職場に転職することができます。コンサルティングファームや金融機関などでは、資格保有者を高く評価する傾向があります。
- 副業収入:本業とは別に、中小企業診断士としての副業を行うことで追加収入を得られます。経営コンサルティング、セミナー講師、執筆活動などが可能です。
- 独立開業:中小企業診断士として独立開業することで、より高い収入を目指すことができます。独立診断士の年間売上は、501~800万円が最も多く、次いで1,001~1,500万円となっています。
- 専門性の向上:資格取得により専門知識が深まり、より高度な業務を担当できるようになることで、結果的に収入増加につながります。
- ネットワーク拡大:資格を通じて得られる人脈や情報が、新たな仕事や機会につながり、間接的に収入増加に寄与します。
- 複数資格の相乗効果:中小企業診断士と他の資格(例:ITコーディネーター、社会保険労務士など)を組み合わせることで、より幅広い分野でサービスを提供でき、収入増加の可能性が高まります。
資格取得による収入増加の程度は個人の状況や努力によって大きく異なりますが、中小企業診断士の資格は高い収入を得るための有効なツールの一つといえます。ただし、資格取得だけでなく、継続的なスキルアップと実績の積み重ねが重要です。
中小企業診断士が「稼げない」と言われる主な理由
1. 独占業務がないため、競争が激しい
中小企業診断士には、法律で定められた独占業務が存在しません。
そのため、経営コンサルティング業務は資格を持たない人でも行うことが可能であり、税理士や会計士、さらには無資格のコンサルタントなど、多くの競合が存在します。このような状況下で、診断士としての差別化を図ることが難しく、結果として受注機会の確保が困難になることがあります。
特に、経験や実績が浅い診断士にとっては、クライアントからの信頼を得るのが難しく、十分な収入を得るまでに時間がかかることが多いです。このような競争の激化が、「稼げない」と言われる一因となっています。
2. 資格取得の難易度と維持の負担が高い
中小企業診断士の資格取得は非常に難しく、一次試験と二次試験を突破する必要があります。
さらに、資格取得後も5年ごとに更新が必要で、その際には理論政策更新研修の受講や診断実務への従事など、一定の要件を満たさなければなりません。これらの要件を満たすためには、時間的・経済的な負担が伴います。
特に、実務経験を積む機会が少ない場合、更新要件を満たすのが難しく、資格を維持すること自体が困難になることがあります。このような高いハードルと維持の負担が、資格の価値と見合わないと感じられ、「稼げない」との評価につながっています。
3. 実務経験や専門性の不足による収入の限界
中小企業診断士の資格は、経営に関する幅広い知識を証明するものですが、実際のコンサルティング業務では、知識だけでなく実務経験や特定の専門性が求められます。
資格取得直後は、実務経験が不足しているため、高度なコンサルティング業務を任されることが少なく、結果として収入が限定的になることがあります。また、特定の業界や分野における専門性がない場合、クライアントからの信頼を得るのが難しく、高単価の案件を受注することが困難です。
このように、実務経験や専門性の不足が、収入の限界を生み、「稼げない」と言われる要因となっています。
これらの理由から、中小企業診断士は「稼げない」と言われることがあります。しかし、資格取得後に実務経験を積み、専門性を高めることで、収入を向上させることは十分可能です。重要なのは、資格取得後の継続的な学習と経験の積み重ねです。
中小企業診断士が年収を上げるためにできること
以下の5つの項目にまとめ、それぞれ解説します。
専門分野を確立し、高度な専門性を追求する
中小企業診断士として年収を上げるためには、まず自身の専門分野を確立し、その分野における高度な専門性を追求することが重要です。得意な分野を一つに絞り、その分野の知識やスキルを徹底的に磨くことで、他の診断士との差別化を図ることができます。
例えば、「経営企画・戦略立案」、「財務」、「販売・マーケティング」、「情報化・IT化」など、特定の分野に特化し、その分野の最新動向や専門知識を常にアップデートすることが求められます。また、事業承継・M&Aや事業再生といった、今後需要が増加すると考えられる分野に注力することも有効です。
高度な専門性を持つ診断士は、企業から高い評価を得ることができ、結果として高単価のコンサルティング業務を受注することが可能になります。専門性を証明するために、関連する資格を取得したり、論文を発表したり、セミナーを開催したりすることも有効です。
顧問契約を積極的に獲得する
コンサルティング業務の契約形態を見直すことも、年収アップに繋がる重要な要素です。特に、顧問契約は、単発のコンサルティング業務に比べて、安定的な収入が見込めるため、積極的に獲得を目指すべきです。
「中小企業診断士活動状況アンケート調査」結果(令和3年5月)によれば、「民間業務がかなり高い」と回答した診断士の方が、「公的業務がかなり高い」と回答した診断士の方よりも、顧問契約を結んでいる割合が2倍以上高く、顧問先数や月額顧問料も高い傾向にあります。顧問契約を獲得するためには、まず実績を積み重ね、顧客からの信頼を得ることが大切です。
■ 問22【顧問契約】-①あなたが行っている顧問契約についてお伺いします。 | |||
---|---|---|---|
公的業務が高い | 顧問契約をしない | 顧問契約をしている | 合計 |
公的業務が高い | 254(77.9%) | 72(22.1%) | 326 |
民間業務が高い | 248(52.4%) | 225(47.6%) | 473 |
■ 問22【顧問契約】-②顧問契約をしている場合※()内平均 | |||
---|---|---|---|
公的業務が高い | 顧問先は会社ですか | 平均で1ヶ月何日出向きますか | 顧問料の月額平均は?(千円) |
公的業務が高い | 71(2.0) | 61(2.1) | 62(8.7) |
民間業務が高い | 219(8.4) | 205(4.8) | 211(160.8) |
また、中小企業支援機関や商工団体、金融機関、他の診断士など、様々なルートを通じて顧問契約の機会を探ることが重要です。
人的ネットワークを構築し紹介による受注を増やす
コンサルティング業務の受注において、人的ネットワークの構築は非常に重要です。「中小企業支援機関・商工団体等からの紹介」がコンサルティング業務の依頼を受けたきっかけとして最も多いことから、これらの機関との連携を密にすることが大切です。
また、他の中小企業診断士や団体からの紹介も多く、中小企業診断士同士のネットワークを強化することで、新たな仕事の機会に繋がることが期待できます。セミナーや勉強会に積極的に参加したり、SNSを活用したりするなど、様々な方法で人脈を広げていきましょう。
また、過去の顧問先や顧客との関係も大切にし、継続的な関係性を維持することで、リピート受注や新たな顧客の紹介に繋げることができます。
コンサルティング以外の業務も視野に入れ、収入源を多角化する
コンサルティング業務だけでなく、他の業務にも積極的に取り組むことで、収入源を多角化することが可能です。例えば、講演会や研修会での講師、執筆活動、調査研究業務など、診断士の知識やスキルを活かせる業務は多岐にわたります。これらの業務を組み合わせることで、安定的な収入を得ることができます。
特に、講演・教育訓練業務は、平均報酬額が高い傾向にあるため、積極的に取り組むことを検討するとよいでしょう。また、執筆活動を通じて自身の専門性をアピールし、ブランディングに繋げることも有効です。
自身のスキルアップを継続し、市場価値を高める
中小企業診断士として常に自身の市場価値を高めるために、継続的なスキルアップは不可欠です。アンケート回答者の多くが「自己啓発,スキルアップ」を資格取得の動機として挙げており、常に学び続ける姿勢が重要です。
中小企業診断士の資格取得後も、新たな知識やスキルの習得に励み、自身の専門性を高めていくことが求められます。具体的には、最新の経営理論や技術に関する情報を収集したり、セミナーや研修に参加したり、資格を取得したりするなどが挙げられます。
また、自身の得意分野だけでなく、周辺分野の知識も習得することで、より幅広いニーズに対応できるようになります。常に自己研鑽を怠らず、市場の変化に対応できる柔軟性を身につけることが、年収アップに繋がるでしょう。